タマ姉からバイトを紹介してもらって、今日からそのバイト先で働く事になった俺。 自給1000円、仕事内容は「炊事」、「洗濯」、「掃除」の家事全般。 まあ、両親が海外にいっている所為もあって、家事には慣れているのだが・・・。 「タカ坊〜〜お腹すいたーー」 そう、この声の主・・・ 俺は向坂家の家政婦さん、いや男なのに家政婦というのもおかしいな お手伝いさんとして雇われた── 「なあ、タマ姉、やっぱこういうのはよくないんじゃないかな?」 俺がそういうとタマ姉はどうして?とでもいいたそうに首を傾げていた。 「これじゃ、バイトって感じがしないし、なにより自給1000円の朝昼晩飯付きっておかしいだろ」 この不景気な世の中、しかもこんな簡単な仕事でこんな条件のいいバイトはそうそうないだろう・・。 それに、俺のしていることは本当にお手伝い程度のもので、ここまでされると逆に申し訳ない 「いいじゃない、私だってタダでお金を払ってるわけじゃないし 丁度お手伝いさんが欲しいと思ってたところなんだから」 さらにタマ姉は“タカ坊を雇わなかったら他の人を雇うつもりだったわよ”と付け加えた。 ・・・タマ姉おそるべし。 「さ、早く晩御飯作って作って!」 俺はタマ姉に背中をおされながら、キッチンに立つ。 「何が食べたい?」 「ん〜〜・・・そうね、タカ坊の作るものなら何でもいいわよ」 ・・・何でもいいというのが実際一番困るわけだが。 「分かったよ、じゃあ作るから部屋で待ってて。出来たら呼ぶから」 俺がそういうとタマ姉はあいよと言って部屋へ向かって行った 「お、貴明、ちゃんと姉貴のつかいっぱやってるじゃ──ゴファッ」 ・・・何故か部屋に戻ったはずのタマ姉が雄二にアイアンクローをかましていた 「わ、割れる割れる・・・!」 そんな騒がしい中、俺は今日の献立を考える。 冷蔵庫を見た限りでは、一通りの食材が揃っていた。 ・・・つか、冷蔵庫にキャビアの瓶やらアワビやら高そうな食材があったんだが・・・。 金のない時や面倒くさいときはカップ麺で済ませる俺とは違ってタマ姉、雄二はいい食生活を送ってるな・・。 よし、昨日の特製カレーのお礼もかねて。 “特製ハヤシライス”を作って見るか。 昨日カレー食べたばっかりでハヤシライスは流石にまずいかと思ったが、構わずに調理を開始する。 「よし、できたっ!」 味見のために小皿にちょっととって、舐めて見る。 「うん、上出来。」 向坂家の食材がいいせいもあって、俺の作ったハヤシライスは絶品に仕上がっていた。 このみのカレーが必殺カレーならば、俺のハヤシライスは必殺ハヤシ(なんかかっこ悪いな)だな とくだらない事が頭に浮かんだ。 「次はサラダっと・・・」 カレーならばここでポテトサラダやマカロニサラダが定番なのだが 玄人志向な俺にはどちらとも選択肢の中にすらなかった。 大根とジャコのサラダか、生野菜を手でちぎって作るちぎりサラダか。 それとも、あっさりチキンサラダか・・・。 散々なやんだ挙句、俺はちぎりサラダにすることにした。 キャベツ、レタスを手でちぎってタマネギのスライスにトマトの角切りを混ぜる。 もちろん、玄人(以下略)な俺はドレッシングも手作り。 オリーブ油に塩コショウ、醤油を適量にまぜて、さっきちぎった野菜のはいったボールにいれ 手でよく書き混ぜる。 ポイントは手で揉むように混ぜる事。 「これでよしっと・・」 ハヤシライス、サラダも完成したがやはりあっさりしたデザートも必要だろう 俺は冷蔵庫にあったヨーグルトにリンゴ、バナナ、みかんをさっと絡めて皿に盛った。 「うし、完成。」 さて、タマ姉や雄二がどんな反応するか楽しみだな ------------------------------------------------------------------------------------ 「「・・・・・」」 俺の予想を大きく裏切って、場はシーンと静まりかえっていた。 「え・・・えーっと」 俺はたまらなくなり、声を発する。 ・・・もしかして二人ともハヤシライスが嫌いだったとか? 俺の両親も何故か2人とも嫌いだったからなあ・・・。 お陰で1人になってからしか食せなかったわけだが。 「すごい・・・」 最初にそういったのはタマ姉だった。 「すげぇよ!貴明!」 それに雄二も続く ホッ。 俺は胸をなでおろす。 「よかった、2人供ハヤシライスが嫌いなのかとおもったよ」 「ううん、そうじゃないの、ただ、タカ坊がここまで出来る男の子だったなんて・・・」 「うんうん、お前にこれほどの才能があったとは俺も思わなかったぜ」 「ははは、そりゃどうも。とりあえず、食べて見てよ褒めてくれるのはそれからで」 いただきますと合掌し(今時珍しいかもしれないが)ハヤシライスを口に運ぶ。 うん、やっぱりおいしい。 「・・・すごく、おいしい・・」 「かぁーっ、うんめーっ!貴明、お前サイコー!」 何故か雄二は泣きながらうめいていた ・・・何かトラウマでもあるのか?? 「雄二、このみを呼んで来て。私達だけこんなおいしい物を食べるだなんて、ズルイわ。」 「おうっ、がってん承知!」 そういうと雄二は勢い良く部屋を飛び出して言った ・・・なんか。逆にここまで喜ばれると恥ずかしいものがあるな・・。 「ところでタカ坊?」 タマ姉がサラダをつつきながら言う。 「ん?」 「こんなドレッシング、うちには無かった筈だけど・・・」 「どうして?おいしくなかった?」 「ううん、その逆よ。おいしいから何処で買ったのか教えてもらって、大量に買いおきしておこうかとおもって」 「ははは、そのドレッシングはね、俺がちゃちゃっと作った物で、非売品なんだよ」 「・・・タカ坊の給料、根本的に見直さないといけないかしら・・」 ははは・・全くタマ姉は大げさなんだから というか自給1000円でもすごいのにこれ以上上がる気か?? いや、もしかしたら逆も有り得るのだけれど。 --------------------------------------------------------------------------------- 「おまたせしましたでありますよー 隊長ー」 そんなおろろけ声とともに、このみがやってきた 「早いな、このみ。」 さっき雄二が電話したばっかりだと思ったんだけどな・・・。 「えへー お腹すいてたから」 ・・・これ以上は追求しないでおこう。 「さ、このみ、座って座って。タカ坊が作った料理、とってもおいしいのよ」 タマ姉はそういうとこのみを座らせ 「さ、コックさん、このみの分もお願いね」 「あいよ」 しかし、喜んでくれるのはいいけど毎日毎日こんなんじゃないだろうな・・・ いや、それもまたうぬぼれすぎというものか・・・。 -------------------------------------------------------------------- 「お、おいしー」 ははは・・・このみは本当に反応がダイレクトで見ていて面白い。 「タカ君、これならきっとお嫁にいけるよ、うん」 ・・・・。 「ありがと、お嫁にはいけないけどな」 アハハハハ 場が笑いに包まれる。 だが俺は、何か忘れてはいないか? 隣に居るはずの、俺の、かの、じょ、が──。 「どうしたんだ?貴明?」 雄二が心配そうに顔をのぞきこんでくる? 「タカ坊?」 「タカ君?」 深呼吸する。 落ち着け、これじゃ折角タマ姉やこのみ(おまけで雄二)に元気付けてもらったのに また繰り返しじゃないか。 確かにささらは居ない。 でもささらだって俺と同じ想いをしてるはずなんだ。 だから俺は──約束に向かって、ささらとの将来を描いて。 走り続けなければ。 「あ、いや、ちょっとささらの事思い出しちゃって」 俺は何をいっても逆に心配させるだろうと思って、正直に告白する。 自分自身への懺悔なのかもしれない。 「タカ坊。」 タマ姉がそっと俺の頭を撫でる 「わ、ちょっとタマ姉・・・!」 「忘れなくていいの。貴方の大事な人だもの。 ただ後ろ向きになっちゃダメよ?ささらとは今生の別れでもないんだし クリスマスのニューヨークで、ささらと逢う約束をしたんでしょう? だから、ささらの事を本当に愛してるのなら、貴方達の未来のために今は辛抱しなさい。 恋に障害なんてものは付き物なんだから。ね?」 「そうだぜ貴明。 大体俺はささら先輩に告ってフラれてんだぜ? そしてささら先輩と付き合ってる男が、そんなんじゃフラレタ俺の立場ないっての。」 「タカ君、ささら先輩はタカ君の大事な宝物なんでしょう? だから、そんな落ち込まないでささら先輩のために、今を一生懸命がんばって! ・・・なんて、偉そうに言いすぎちゃったかな・・?」 ・・・っ 溢れそうになる涙を堪える。 俺と、ささらにはこんなにも支えてくれている仲間がいたなんて。 「・・・みんな、ありがとう。俺、幸せになるよ」 こうして俺は、再び走り出した。 クリスマスのニューヨークという、ささらの待つゴール地点まで──。 ----------------------------------------第3話へつづく。 『子供の心/大人の心』第2話