ささらがアメリカに留学して半年。 俺、河野貴明(こうのたかあき)は明日、アメリカに行く。 それは、もちろん愛しい彼女、久寿川ささらに逢う為に── --------------------------------------------------------- 『うん――私、待ってる。待ってるから!』 ささらが旅立って2日。 前向きに、前向きに考えようとはしているのだが どうにも涙は枯れず、食欲も湧かない。 最初はお堅い生徒会長だったささら 誰にも心を開かず、“副長様”だなんて恐れられていたささら。 今思えば終業式準備のあの日、俺が『ひとりだけサボるなんてずるいぞ!』だなんて 思って、屋上に行かなければ今のささらも、俺も無かったんだっけ・・。 そう考えると恐ろしい。 あのとき俺が屋上に行かなかったら── あのとき俺がささらの本当の姿を見なかったら── そんな事を考えてると流れる涙は増す一方で 心は穴の開いたように痛い。 「女の子が苦手・・・か。」 そう、俺は昔から女の子が苦手で、まともに話す事もままならないし 近づくだけで飛び退いてしまうような、そんな感じだった。 「でもささら──俺やっぱりささら意外の女の子は苦手だよ・・・」 全く、嫌になってくる。 女の子が苦手だ苦手だなんて言ってた俺が今はささら(女の子)が居ないと こんなにも胸が苦しくて、悲しくて、心に穴があいてしまったようになるなんて ──ピンポーン 誰かきた。 が、今の俺に、玄関に行って客の相手をするなんて気力は無かった。 そして暫くインターホンが鳴り続けたかとおもうと、今度はガチャリなんて音がした ・・・泥棒か? 泥棒でも何でもいいや、もう何でも好きにしてくれ・・・ そして俺は頭から毛布を被った しかし、俺の毛布は何者かによって剥ぎ取られていた 俺は(泥棒かと思って)おそるおそる顔を上げたが・・・ 「・・・タカくん、ご飯食べないと死んじゃうよ・・・」 このみが瞳に涙を浮かべながら俺を見ていた 「なんだ・・・このみか」 「『なんだこのみか』、じゃないよ、タカ君死んじゃうよぉ・・・」 このみがついに泣き出す このみには悪いと思う。 でも、胸が苦しくて、生きてる意味と価値すら見失いかけて “食事”という基本生活行動すら今の俺には意味のない物だった。 「悪い、でも俺今は何も食べる気がしないんだ」 おやすみ、と一言このみにいうと、俺は再び毛布を頭からかぶった 『・・・そうやって、自分だけ悲劇の主人公気取って逃げてれば楽でしょうね』 そんな、俺にとって無視の出来ない言葉の主を確認するために俺は再び身体を起す 「タマ姉・・・」 タマ姉が壁によりすがって腕を組んで今までに見た事のない冷たい目で俺を見ていた いや、視ていたという方が正しいのかもしれない。 俺の心すべてを読み取られたような、そんな感じのする視線だった。 「正直見損なったわ、タカ坊がそんなひ弱な男の子だったなんてね」 「!!タ、タマお姉ちゃん!」 このみがそれ以上は言わせまいと、タマ姉に駆け寄る そんなこのみをタマ姉は手で制し、続ける 「辛いのはタカ坊だけじゃないのよ、ささらだって辛いに決まってるじゃない・・・」 「・・・」 「それに、逆にささらが今のタカ坊みたいな状態になってたら、タカ坊はどう思う?」 ───っ ビクン、と身体が震えた。 ささらが俺のように・・・? 「そんなささらを見てるの、タカ坊は辛くない?」 ・・・・ 「・・・辛いに、きまってる」 「でしょう?それにタカ坊、ささらを空港で見送ったとき何言ったか覚えてる?」 ささらと空港での分かれ・・・ ---------------------------------------------------- 『俺──ささらをまたないから! 俺から逢いに行く!バイトして、お金ためて──それから──』 溢れる涙が止まらない 周囲の人が何事だろうかと俺らを見ているが、そんな事すら気にならなかった 『ク、クリスマ、クリスマスの、ニューヨークで、さ、ささらに・・・あう!!』 泣きじゃくってまともに言葉もでない中、俺は言い切る そうだ、これでお別れだなんて絶対に嫌だ。 一生のお別れじゃないにしても、ささらに何年もあえないなんて俺には耐えられない そして、クリスマスには永遠の愛の証を持って── 『うん――私、待ってる。待ってるから!』 ------------------------------------------------------------ 「あ──、あ──」 俺の瞳から涙がポロポロとこぼれる。 そして欠けていたパズルが、ようやく1つになった。 「うん、うん──俺、ささらの帰りなんて、またないんだ・・・!」 -------------------------------------------------------------- そして、俺はこのみの『必殺カレー』をご馳走になる事になった。 「・・・おいしい」 なんだろう、前にこのみから食べさせてもらったことがあるが、今日のはよりいっそう美味しかった 「えへへ、おかわりもいっぱいあるからたくさん食べてね」 「ああ、ありがとう」 俺がカレーを口に運んで飲み込むのを見届けるのをみるとこのみとタマ姉も食べ始めた 「「おいしい・・・」」 タマ姉とこのみが声を合わせて言う。 うん、これは確かに美味しい ひょっとしてレストランにでもだせるんじゃないか?と思うほどの出来(味)だった 「タカ坊、このみはね、ここ2日間ずっとタカ坊のためにご飯をつくって、ここに置いておいたのよ?」 え・・・ 確かに、毎日このみがちょくちょく来てたようなおぼえがあるが、まさかそこまで・・・ 「このみ・・・ごめん・・俺・・・」 「ううん、いいの。タカくんの気持ちが分からないほど子供じゃないし」 「それに──タマお姉ちゃんだって学校でタカ君の無断欠席の件を上手く言いくるめてくれたんだよ?」 うわ・・・そうだった・・・ 学校だって行ってなかったんだ、当然連絡なんていれてるわけないし・・・ タマ姉がうまく言ってくれてなかったらちょっとヤバかったかもな・・・。 「タマ姉・・・ごめん・・・」 「気にしないで、このみと被っちゃうけど、私だってささらとタカ坊の 良き理解者のつもりだから」 タマ姉はそう言うと俺の空のコップにお茶をいれてくれる。 「それでね、タカ坊、タカ坊がどうしてもささらに逢いに行きたいっていうなら お金はいくらでもあげるわよ?」 タマ姉がちょっと遠慮がちにいう。 タマ姉のこの言葉(好意)はすごく魅力的だ たしかに、タマ姉の家の財政なら俺がアメリカにいく費用くらい対した事はないだろう。 ただ── 「ありがとう、タマ姉。でもそれじゃダメなんだ 俺が12月にささらに逢いに行くときは特別な意味と特別の証を持っていく時だから」 そうタマ姉とこのみに言い放った俺は自分でも驚くほどに清々しかった 俺のささらへの想いをこめた決意を口にすることで、ささらへの想いが、ぬくもりが 俺を包み込む、そんな感じがした。 「そう、タカ坊ならきっとそう言うと思ったわ。 そうね、ならいいバイト先を紹介しましょうか」 --------------------------------------------------------第2話につづく 『子供の心/大人の心』第1話