無銘三代目

さくらの道

『前編』 リン、リリン__ その日、私は死に神に出会った。 私は 死に神に出会った。 真っ黒で鴉を、連想させる漆黒のマントで体を覆った死に神は、まるで、羽毛のようにふわりと、舞い降りた。 場所は、朝倉くんと初めてあった場所。 もう散ってしまった。 魔法の桜の下で 死に神は舞い降りた。 マントの間から見える死に神の顔は、すごく綺麗な少女であった。 陶磁器の様な肌に、浮世離れた顔、まるで生まれたての赤ん坊の様に可愛くもあり大人の女性の様に魅力的でもあった。 少女は、真っ白の骨で出来た鎌を握り締め まるで 「こんにちは」 冷たい湖の様な鋭利な声色で、そう言った。 「・・・・・・・・・こんにちは」 「始めまして」・ 「・・・・・・始めまして」 「私は、死を謳い 輪廻を司る者として貴女に選択を求める」 「え?」 それが、私と死に神の出会い 死に神は、言った。 『選べ、愛するものを失うか、お前が死ぬかを』 必然なる別れ それは、必ず誰にでも訪れる どれだけ、人を愛して どれだけ、人を・・・・ それは、死という必然 それは、逃れられない運命 「ふわぁぁぁぁ〜〜、そうか、音夢いないんだ」 窓から照らす、冷たくも眩しい太陽が朝と冬の到来が近いという事を知らせている。 俺は、そんな事を思いながら じじじと鳴るサッカーボール型の目覚ましを止めた。 「かったる・・・・・・・・・・さぼるか?」 と刹那 『兄さん、もし私がいないからってサボったら・・・・・・分かっていますよね』 という声と、音夢の顔が脳裏に浮かんだが__ 「ふふふ、いないやつがなにを言っても、無駄だ」 そして、俺の意識は眠りに・・・ ガチャン 「朝倉君。起きてる?」 「ZZZzzz・・・って、ことり!!」 俺は、跳ね起き目の前の少女を見た。 その、少女の名は白河 ことり 学園のアイドルであり、俺の恋人が目の前にいた。 「ちわっす」 「たっく、音夢の奴。ことりに鍵渡しているなら・・・」 『御免なさい、兄さん。言うのを忘れてしまって』 と、電話越しに我が妹(義理だが)である。音夢がすまなそうに話していた。 『だって、白河さんに鍵渡しておかないと。兄さん、いつまでも寝てそうな気がしたので』 「う」 『・・・・・・・うって、兄さん。はぁ・・・渡しておいて、良かったみたいですね。所で兄さん』 「うん?」 『白河さんと二人きりだからって、変な気を起さないでくださいよ?』 「いや、それならもう・・・ごほごほ。そんなことするわけないだろ。俺とことりは、プラトニックな関係なんだぞ」 『はぁ・・・まぁ、いまさらお二人の関係に口を出すなんて、野暮な事はしません・・・ええ、しませんよ。しませんたら』 「音夢さん?」 『ええ、兄さん。白河さんと私のいない間にナニしようとも関係ありませんから!』 と明らかに語尾が怒っていた。 ・・・なぜだろうか、電話越しなのに今、音夢がどのような表情を浮かべている事がわかった。 『私、これから授業なので失礼します!!』 ガチャン・・・ツゥツゥツゥ〜〜 閑話休題 「そういえば、ことり。ライブの練習とかしないでいいのか?」 俺は、ふと頭に浮かんだ疑問を言った。 ことりは、今年も学園祭で歌を歌う事になっており、昨日は朝練でもっと早く学校に行っていて、こうして一緒に登校出来なかったのだ。 ちなみに、文化祭まであと3日だ。 さらさらの髪、端麗な顔。 「大丈夫」 可愛らしく、とても澄んだ顔で、微笑を浮かべ まるで、鈴のような美声でそう言った。 俺は、その横顔を見つめ どこか、違和感を覚えた。 いつもと変わらない。ことりの様子に 「本当は、朝倉君が言った通り、ガンガンのデスメタルを演奏したかったっすけど・・・」 「いや、あれ冗談だから本気にしないでくれ」 「いえいえ、前からやってみたかったんですよ、でも流石に演習時間が少ないとやめたら、今度は練習時間多すぎで、皆完璧に出来に出来て豪語するぐらいなんです。だから、朝の練習は中止になってしまったんです」 そう言って、ことりはくすと笑った。 俺は、その普段と変わらない笑顔にさっきの違和感が気のせいだった。そう思った。 「・・・なんか、不思議な感じだね」 「え?」 「学園の・・・この桜並木が、こうやって色んな姿してるの」 もう、あの散るはずがないと思っていた。 桜は散り、青々しい葉っぱが咲き、今は少し茶色かかってきていた。 「そうだな・・・」 __この初音島出身であり、この島で育った俺たちにとって、散っている桜というのは たぶん本土の人より、淋しく感じる。 だって、俺たちにとって桜はひとつしかない筈なのに 花は枯れるから美しいとは、決して思えなかった。 俺はふと、ことりの顔を見た。 その可愛らしい瞳が、どこか遠くを見ていた。 まるで___ 「おっにぃ、ちゃゃぁぁん」 ドゴォオ・・・ゥゥン 俺は、突然襲った。後ろからの衝撃に耐え切らずコンクリートとキスをした。 「あべし」 「あっ朝倉くん」 俺は 背中に抱きついてきた少女。 否、タックルしてきた女の子と、見間違えるような肢体。 というより、俺にこんな事をするのは、一人しかいない。 「さくら」 少女の名を言った。 「えへへ、お兄ちゃん。おっはよう」 天真爛漫な声色で、俺の背中越しでさくらが言った。 「・・・いいから、退いてくれ。重い」 「重いって、お兄ちゃん。それレディに失礼だよ」 「あの、先生」 「ちぃーす、白・・・っ、えーと、お兄ちゃん。僕、先に行ってるね」 「え」 突然、さくらは、まるでことりから、逃げるかのように、さくらが走り去っていく。 「なんなんだ。あいつ?」 気のせいだろうか、一瞬だけ見えた。 さくらの瞳が、涙で潤んでいた気がした。 「もしかしたら、私たちの邪魔をしちゃいけないと、気を使ってくれたのかな?」 俺は、そのことりらしくない、冷たく淡々とした声に横を歩く。ことりの顔を見た。 その瞳が また、どこか遠く見つめる瞳をしていた。 俺は、その瞳を知っている気がした。 昔 なくしてしまった思い出の中に 昼休み この冬を迎えるこの季節の屋上は、人一人いなかった。 そう、彼女らふたりだけ・・・ ・・・ちなみに、いつも屋上でなべを食べている姉妹がいるのだが、食材が逃げてある少年と一緒に捜索中。 「ごめんなさい、芳乃さん」 さくらさんにそう礼をした。 私のために泣いてくれている。彼女に 「どうして・・・」 芳乃さんが、小さく呟いた。 「どうして、白河さんが・・・」 「ありがとう」 「なんで、死に神に憑かれているのに、なんでそんな風に、笑っていられるの」 それは、もう答えは出ていた。 死に神が、選択肢を与えてくれたとき まるで、もう熟読した。 台本のセリフを喋るかのように 「なんで、死ぬのにそんな顔で笑っていられるの?」 私は、己の死を選んだ。 「・・・・・・・・・死は、誰にでも訪れます。ただそれが早いだけです」 違う、何も考える事が出来ないだけ、何の感情も浮かばないだけ 愛すべき人の為に・・・ 「・・・」 「私は、幸せなんです。今、朝倉君と一緒に登校して、一緒に下校して、体を重ねて、一緒に同じ物を食べて、愛を語って・・・・・・」 「それが、長く続けばいいと思わないの?」 嗚呼、なるほど・・・ その言葉に、私は気づいた。 彼女は、知らないのだ。 私が死ななければ、誰が代わりに死んでしまうのかを 「はい、永遠に続けばいい。そう思います。でも、朝倉くんは、闇に囚われたこの私を助けてくれた。今度は私が救いたい」 「白河さん・・・・・・」 芳乃さんは、私の名を呼ぶ。 まるで、そう言わないと消えてしまうかの様に そして、時日は過ぎた。 いつもどおりの一日 一緒に登校して 一緒に食事して 一緒に遊んで デートして 体を重ねて 一緒に、同じ空気を吸って 一緒に、同じ時間を生きて それは 短き、幸せな夢 そして、舞台は学園祭に変わる。 幸せを悪夢に変えるために 「♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 ことりが、歌う。 舞台の上で、まるで妖精の様に その鈴のような美声でみんなを魅了していた。 まさしく歌姫の様に 俺は、そのただ一人の観客にしか過ぎない。 体育館の中、ことりが、歌っているのをただ聴いているだけ ただのこの、観衆の一人でしかない。 普段なら誇らしくもあり寂しくも・・・あったという、感情でしかなかったのだろう。 「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」 と、みんなの歓声が大きくなった。 どうやら、曲が終わったみたいだ。 「はぁ」 「どうした?朝倉、恋人の晴れ舞台というのに」 「いや、ちょっとな」 俺は、横にいる。 杉並にそう返した。 「なんか_____ 「寂しいか?」 「・・・・・・まぁ、そんな所だ」 俺は、自分が言おうとした言葉を飲んだ。 最近、ことりの様子が普段と違うことという事を。 そして、今こうして舞台で踊っている。ことりが、心なしか元気がない気がした。 ・・・たぶん、気づいているのは俺だけなのだろう。 あんな、泣きそうなことりに気づいているのは 「ふん、馬鹿だな」 「そうだよ、朝倉」 とこれは、工藤だ。 「ことり言っていたよ。私が歌うのは、朝倉くんの為だって」 俺は、ことりを見た。 舞台上のことりと目が合い、ことりは嬉しそうに手を振ってきた。 「ほらね」 工藤が、からかう様に俺の背中を叩いた。 「ことりは、いつもお前の事。見ているんだよ」 俺は、その言葉に手を振ることで肯定した。 ああ、そうだなと そして、言葉を合図の様に次の曲が始まった。 「かったりぃ」 「ふふふ」 「くくく」 二人が俺の言葉を受けて、笑った。 照れ隠しだと、思ったのだろう。 でも、違う。 違うのだ。 やっぱり、俺を見て、手を振ったあの少女の瞳が 悲しそうに、歪んだ気がした。 まるで、今生の別れをされた気がした。 そして 最後の曲が 始まる。 ____枯れない桜 名も無き桜の下 私たちは出会った。 全ては、そこから始まった 貴方は一体、どれだけ私を助けてくれたの 貴方は、いつも私を支えてくれた いつか、私は貴方を救ってあげたい さっきまで、騒いでいた観客が、一斉に静かになった。 みんなことりの声に引き込まれていた。 ゴクン 息を呑む音が、まるで騒音に聞こえた。 静寂の中 そして、皆息を吸うことすら忘れて ただ、ことりの声だけが響いた。 ____私は、貴方を愛しています その時 ことりの真上 色、鮮やかな照明を支えるネジが音を立て外れた。 ガッゴ その音は、体育館の中の舞台上にいる ことりの耳にだけに届いた。 それを聞いた、ことりは死に神の鎌を振り下ろしたかのように聞こえた。 だから、ことりは 「ああ、もうすこしだけ生きたかったかな」 最後に、自分の本当の気持ちを零した。 くっすと、涙を流し笑った。 そして ガシャァァァ 照明は、ことりを下敷きにして地面に落ちた。 ャャャャン・・・・・・・・・ 照明が落ちて 灰塵が舞い、静寂が訪れた。 皆、目の前で落ちた出来事に驚き、声を失った。 「ことりぃぃぃぃいぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃ」 ただ、彼の声いがいは・・・ ____俺は、思い出していた。 あの目を あの目は あの遠くを見る瞳は あれは、死を覚悟している人間の瞳だ。 あの魔法使いがしていた瞳だ。 死に間際に浮かぶ哀愁の瞳 過去を偲ぶ瞳 死は、逃れることなく誰にでも訪れる ただ、それがいつなのか分からないだけ もしかして、次の瞬間 愛している人が死んでも可笑しくはない それは、運命という別れ リン、リリン 詩を歌い 輪廻を司る者はその様子をただ、見ていた。 人が、死に、それを、誰かが、嘆く。 その者にとって、もうそれは何も感じないほど 何千何回と見ていた。 ごめんなさい それでも 麻痺していても どこか どこか 奥深く 死に神は感じる。 ごめんなさい そう呟く自分の声を感じた。 「なんで、なんで」 私は、その言葉に振り返った。 そこには、一人の少女が立っていた。 もう二度と、会いたくなかった人が 「さくら・・・」 「なんで・・・・・・」 さくらは、私の胸倉を掴み私を、揺さぶる。 「なんで、こんな事をするの」 その蒼い瞳に涙を貯めて 私は、思わず目を背けようとした。 でも、それは私の存在を否定することになって・・・ 私は私という呪縛に縛られ 目を背ける事は出来なかった。 そして、さくらは、まるで刃を突きつける様に、私の名を呼んだ。 「うたまる」 刹那 __リン、リリン 付けていない筈の、鈴の音がまた鳴った。 その鈴の音が、私を過去に飛ばした。 大地に咲く あまりにも美しい桜 狂ったように咲き誇る、真っ赤な魔性の桜 私は、その桜から生まれた。 正確には生まれ変わった。 もう名前も忘れた。 連続殺人犯が、殺めた人間を埋めていた場所 その桜の下で、私は死という概念を持って、生まれた。 その時、私はまだなんの名前もなかった。 ただ死を謳い 輪廻を司る者という概念だけは確かに持っていて 私は、旅に出た。 概念・・・存在理由のため。 死体を巻いていた黒の布切れと死体の骨で作られた鎌を、握って ただ、死に神という存在理由の為。 行動した。 そう魂狩りの旅を 旅先で私は、誰にも見えず、ただ私が死ぬと思った。 人間は死んで、私が鎌を振れば、その魂はどこかに送られていった。 私は、恒久に孤独で 誰にも見えず。 誰かの死を見送る。 たくさんの人間を葬っていく。 ただ、それだけだった。 それが、私が生きているという意味だった。 この初音島という島に、来るまでは その島は、桜に包まれとても綺麗な島だった。 桜から生まれた私にとって、桜とは心のふるさとと同然であった。 そう、桜はすぐ散って 醜い姿を晒す桜は、私そのものでもあった。 でも、ココの桜は少し違っていたけど・・・ 「おや、珍しい者が来たものだねぇ」 最初、私はそれが自分の事だと、思わなかった。 だから、最初。私は、それを無視した。 無視するはずだった。 なのに、私の体が、 心が、 何かが、 それを許さず その声の主を見つめ、動くことを封じていた。 「おやおや、まったくこっちにおいで」 その人は、その人は 名前なんて知らない ただ芳乃という名しか覚えていない でも、その人はとんでもなく優しく 温かみのある人だと覚えている。 「・・・・・・」 私は、無言でその人の方に歩んでいた。 まるで、引き寄せられるかのように とことこと 「こんにちは、あなたのお名前は?」 その声は、本当に優しかった。 そして、どこまでも澄んでいた。 「・・・ない」 「なら、貴女は何?」 「・・・・・私は、死を謳い、輪廻を司る者」 なぜか、その時 私はズッキと胸が痛んだ気がした。 なぜか なぜ、私は誰かに言われる名がないのと 記号ではなく、己だけの大切なたった一つだけの名がと、なぜかそう嘆いた。 「そう・・・・・・なら、うたまるね」 「・・・え」 「だから、死を謳うのウタと、輪廻だからマルで、うたまる。いい名でしょう?」 そう言って、その人は笑った。 月の様な優しみと全てを包む声で・・・ 「・・・・・・いラナい」 私は、意志とは関係なくただ口だけがそう言った。 「イらなイ、私ニ名などいラナい。私は、私には他と関わるための名ナドイらない」 それは死に神として、言葉だった。 存在が私を塗りつぶし、語っているのだ。 死と狩るという以外の選択肢をなくす為に 「『失せなさい』」 その人が、突然冷たい口調で言った。 まるで、冬の湖の様な声だ。 「私は、貴方と話してないの。その子と話しているの」 確かに、私はその時感じた。 自分の中の闇がなくなったのを 教会の鐘が鳴り響く音を 確かに・・・私の中の死に神という概念が消えたのを まるで、闇を照らすように、その声は、私の心に染み渡った。 「・・・貴女は、一体?」 「うん?私、魔女よ。ところでうたまる。貴女、私の使い魔にならない」 天真爛漫な笑みで、魔女は、あの人はそう言ってくれた。 その言葉の中に、否定させる事などない ある意味、有無を言わせずと言った感じの言葉だった。 「・・・変な名前・・・」 私は、首を縦に振った。 「そう、ありがとう。問い合えず風呂に入って、綺麗になろうね」 こうして、私の短い夢は始まった。 そう、この散らない桜が散る刹那まで 前編終了