後編 ピンク色の桜が、オレンジ色に染まっていた。 今は、夕暮れ時。 全てがオレンジ色に染まっていく。 夜の暗闇に包まれる、刹那に似た時間だけの短き世界。 俺が、歩いてきた道筋もまたオレンジ色に染まっていた。 だが、目の前の家にある豪邸(水越家)だけは、漆黒の闇に覆われている気がした。 「おい、時間経過がおかしいぞ。どうして眞子家に行くだけこんなにって、そりゃ、あんなにゆっくり歩いたら当たり前か……」 俺は、覚悟を決め ピンポーン チャイムを鳴らした。 『はい、どちらさまですか?』 「………眞子か?」 『あっ朝倉……遅いわよ』 眞子がインターホン越しに俺の名を呼んだ。 その声は怒っているというより来てくれたんだ、そう言われている気がした。 「悪い、遅くなった」 『………今開けるから』 ……ギィギィィィ という音を立て、目の前の大きな扉が開いていく。 俺は、扉を潜りながら まるで、猛獣の口の中に入っていく様な、錯覚に陥った。 俺は、かつん………かつん………かつんと、歩んでいると眞子と、萌先輩が俺を出迎えてくれた。 萌先輩は、昔となんら変わっていなかった。 にこにこと微笑みながら、おっとりとした口調。 そして あの時と同じ 人形の瞳をしていた。 挨拶を交わした後。 俺は、水越家の夕食に呼ばれた。 目の前には、水越家定番の鍋料理が置いてあり、いろんな食材が、 赤い液体の中で煮えていた。 どうやら、鍋の中身は『キムチ鍋』のようだ。 「朝倉君。たくさん食べてくださいね」 萌先輩と 「朝倉、たくさん食べなさいよ」 眞子が言った。 「頂きます」 俺は、手を合わせ、鍋を摘んだ。 「美味しいです」 俺は、鶏肉とキムチを食べそう言った。 体の中が、丁度いい辛味に温まっていく。 「うん、本当に美味しい」 眞子が俺の言葉に賛同した。 ? 「あれ、眞子お前__ 辛いの、駄目じゃなかったか?と言おうとした瞬間。 遮るように 「あれ、眞子ちゃん……なんか辛いですよ。このモツ鍋?」 萌先輩が、そう呟いた。 「え」 「……………」 「おかしいですね、どうして白菜が辛いんですかね?」 俺と、眞子を同時に固まった。 ……だって、それキムチじゃないですか? その言葉を俺は、飲み込んだ。 なぜなら 眞子が、俺の膝を、音を立てないように叩いたから……… 眞子を見ると、眞子の横顔が 『なにも言わないで』とそう言っていた。 それと 悲しそうに、自分の唇をかみ締めるその顔を見たからだ。 「うーん。なんで、でしょうね」 萌先輩が、冗談ではなく本当に不思議そうに首を傾げた。 そして、結局。 最後まで萌先輩は、それがキムチ鍋だと気づくことはなかった。 「お医者さんが言うには、お姉ちゃん。赤が認識出来ないんだって」 食事を終え、かるく雑談を交わした俺は水越邸を後にした。 眞子が途中まで送っていくわと言われ、俺はその言葉に甘えた。 否、萌先輩にそう見えるようにして そして 水越邸の敷地を出た頃 眞子は、そう言った。 眞子の家……正確には水越家は大きな病院を経営していている。 だから、眞子がいうお医者さんというのは、たぶん眞子の父さんの事なのだろうかと、関係ないことを思った。 「交通事故にあって、血だらけに倒れた『敬君』を見た。お姉ちゃんは、その時の血……赤色がトラウマになってしまって、無意識に見ることを止めているだって」 そう言いながら、眞子の瞳からとめどなく涙が流れだした。 「今まで大丈夫だったのに……やっと、立ち直ったのに……なんで突然」 眞子が、突然俺の胸倉を掴みながら泣いている。 「ねぇ、私。どうしたらいいの。ねぇ!」 …………わからない。 何を言って、いいのか? どうすればいいのかが 「朝倉、痛いの。あんなお姉ちゃんを見ているのは…」 嗚咽を漏らしながら、眞子は地面に膝をついた。 何も言えなかった。 俺は、ただ眞子を抱きしめてあげることしか出来なかった。 「うぅ……ぅぐ…うぅうう……すぅすぅ」 「え?」 俺は、眞子を見た。 「寝てる?」 眞子は、静かに寝息を立て寝ていた。 これは、推測の域を出ないけど、もしかしたら眞子はずっと寝ていなかったのかもしれない。 お姉ちゃんが心配で ずっと寝ることも出来ず、悩み続けたのではないかと 「俺は、何も出来ない」 俺は、無意識にその言葉を言っていた。 眞子に『助けて』と言われ、俺はなにも出来ずなにも言えなかった。 俺は__ 「無力だ・・・なにも出来ない」 ヒーローになれはしない 「それは、違うよ。君は少なくとも私を救ってくれた」 俺は、その言葉に空を見上げた。 「希?」 「この姿の時は、『うたまる』と呼んで欲しいかな?」 見上げるとそこには、満月が浮かんでおり そして、漆黒のローブと骨で出来た鎌を持った。 『うたまる』が、桜の天辺から俺を見下ろしていた。 「なにも言わなくて正解だよ。君の言葉は『萌先輩』に届かない、悪影響以外は」 『うたまる』はそういうと桜から飛び降り、両手を広げ地面に着地した。 その姿は、まるで烏の様であった。 「人は人に影響を与えることも出来ず、また人から影響をうけることもできない」 謳う様に、『うたまる』が口を開いた。 「太宰 治の言葉だよ。人は、所詮。他人の言葉をそのまま認識するわけじゃない、自分がそう感じたことを認識するという意味だと、私は解釈している」 君が、どう思うかは別だけど……と __リン、リリン まるで、粘土細工に切り目を入れたような笑みを浮かべながら、そう言った。 「君が何を言おうと『萌先輩』はなにも変わらない。今『萌先輩』を動かしているのは、過去への執念だけ__ と、そこで一瞬だけ眞子に目線を向け 「妹の願い、悲しませたくないという願いはもうない」 悲しそうな瞳で、そう言った。 「また…夢を見たとき、『啓君』しか見えなくなってしまった。 だから、『敬君』が死んだという事を認めることが出来ず、それを思い出す原因になる。 『赤』……いや、それだけではなく、見えなくなってきている」 うたまるは、悲しそうに顔を歪めた。 「…ごめん」 「え」 「………闇に取り付かれた。私を助けるため、さくらがもう一度咲かした『魔法の桜』。 そのせいで、『萌先輩』は、もう忘れる筈だった。夢を見てしまった。」 俺は、その言葉に気づいた。 萌先輩が、夢を見なくなった時期 萌先輩が夢を見た時期 それの共通点は『魔法の桜』が咲いているかいないか…… 「夢は、人の願望を表すけど同じユメを見続くけることは稀だ。なぜなら人は、変わり続ける『現在と未来』を生きているから同じ夢を見る事は出来ない。…例え、祈っても、見ることはない。なぜなら…人は毎日生きているから…過去を『捨てて』前を進んでいるのだから………ねぇ、Laudatores Temporis Actiを私がどの様に仮定しているか、覚えてる?」 「……………『過去しか見る事の出来ない人間』」 嬉しそうに、『うたまる』が拍手をした。左手に鎌を持ちながらという器用な事をしながら、クスと『うたまる』が笑った。 その笑みは、まるで冷たい湖のように冷たくゾクと体が震えた。 __まるで、今までの事はただの戯言で、いまから本題に入ると言わんばかりに 「『過去しか見る事の出来ない人間』と言うのは、『今を捨てる』という事を指す事だと私は思うのだけど、そう思わない?」 後、『捨てて』という言葉は、忘れているっていう意味だよ。とうたまるが言う。 俺は、その言葉にわからないと言った。 そうと、うたまるは、どうでもいいように言い。 「今、『萌先輩』は過去という夢にとりつかれているの、私が怨霊に憑かれてしまった様に」 ため息を吐くように言葉を繋いだ。 「え?」 「たぶん、そう長くない時間で『萌先輩』は、完全に現在、未来を捨て、過去という夢を永遠に繰り返す様になる。それは、その人にとって幸せか不幸か分からないけど…… それは、死となんや変わらない でも性質(たち)が悪いよ。これは私のときみたいに原因を取り除いていいものじゃない。なぜなら、その原因はユメ(過去)。ユメは__ そう言って、『うたまる』は、自分の頭を指差しながら 「己自身なのだから(ここでみるものだから)」 囀った。 つまり、こう言っているのだ。 『萌先輩』が憑いている『ユメ(過去)』という名の亡霊は、『萌先輩』そのものであるだと。 そもそも過去は、人にとって現在を形作った土台。 だから、それを無くすと言うことは、もうその人はその人ではないという事になる。 過去を失った人間は、姿が同じでも『違う存在』でしかないのだ。 そう過去は皆が、全員が同じじゃない。その人がそれぞれ別の記憶を持っている。 それは、人は他人とは違うと言う照明になるという事になる。 つまり、過去こそ今の己を造っているという事になる。 故に、『うたまる』が言うとおり。 『原因』を排除すると言うことは、『萌先輩』という存在を殺すと同じことなのである。 そして 『うたまる』は、もう一度謝った。 ごめんなさい。私が、闇に堕ちたせいだ。 と、自分を責める様な口調で言った。 だが、その瞳は 「……うたまる」 「…………さくらは、君が救うと信じている。」 射抜くような瞳で俺を見ていた。 「でも、君じゃ救えない。過去しか見えない人と現在を生きる人間の距離は、限りなく遠い…………それこそ、水面に浮かぶ月を斬るようなものだ」 「なっなら、どうしたらいいんていうんだ」 俺は、肩を竦めながら淡々と語る『うたまる』にそう答えを求めた。 『うたまる』は言った。 『君じゃ』と、ならそれは『私は救える』という意味を持つのではないかと 俺は、その言葉に希望を見出していた。 そして 『うたまる』は 「ないよ」 俺の希望を粉々に粉砕した。 「え」 『うたまる』が、笑みを浮かべた。 中傷、侮蔑を強く刻んだ。 笑みを浮かべていた。 ………まるで、すべてを切り裂く様な冷たい声で『うたまる』が囀る。 「大体、なんで君はそんなに悩む必要があるんだい」 ゾク 体が突然恐怖で震えだし、指一本動かせない。 気のせいではない………気のせいではない……目の錯覚じゃない。 『うたまる』から、『うたまる』の体から陽炎が溢れ出した。 否、陽炎というには、それはあまりにも■だった。 黒き狂気、死というモノを具現化した様な陽炎。 俺は、いまさらながら思い出した。 こいつは、『死を謳い 輪廻を司るモノ』 死に神という事を 「君が、好きな相手は『白河 ことり』だけだ。それ以外誰が死んでも『どうでもいい事』ではないのかい」 死に神は、一語一語嘯く(うそぶく)ことに ビシ 空間に皹が奔っていく。 まるで、この世の全ての存在を認めていないような顔を浮かべている。 死に神が、小さく唇を噛締めた。 それに、目の前の少年は気づくことはなかった。 ただ、死に神は問いかけていく。 なぜ、君は悩んでいるのかと…… 答を知っているのに、答を求めた。 返ってくる言葉は、手に取るように分かるのに それでは、私は問いかけた。 「……どうでもいい?」 俺は、凍ったように動かない唇をなんとか動かした。 「そう、どうでもいい事だ。死んだ所でなんとか一日、続く程度でしかない。 お前にとって、『萌先輩』が死んだときの痛みはそれだけでしかない」 俺は、なにかが切れる音を聞いた。 「……ざ………な…」 「ん?」 そう__「ざっけんじゃねぇ!」 __堪忍袋の緒が切れる音を 今までの、恐怖心が嘘のように 叫び。 俺は、今まで動けなかったのが嘘のように消え 『うたまる』に歩み寄った。 そして 「どうでもいいわけねぇだろうが!」 俺は、希の胸倉を掴みそう叫んだ。 「なぜだ、どうしてそう思える?お前にとって『萌先輩』は懐かしい。つまり忘れていた存在ではないのか、なぜそんな人間にそこまで苦悩する必要__ 「あるさ」 「…」 「鍋を食わしてもらった」 俺の、言葉に『うたまる』は怪訝そうに顔を顰めた。 「たかが、それだけの事で…か、簡単だな」 「それだけで、十分だ。それに…確かに、俺は『萌先輩』が死んでも、大して悲しまないかもしれない。 でも、俺は『人を失った悲しみ』を『ことり』を失ったと思ったとき感じた。あの大切な人を失った気持ちを知っているから 俺は、『萌先輩』に死んでほしくなんてない 眞子を、悲しませたくない。 だから俺は救いたい。 誰かを悲しませたくない、それになんの理由も必要なんているのか? 俺は、理由なんていらいない……そう信じる」 私は、その言葉に心の中で苦笑した。 信じる…か、その言葉は『悲しまないなんて事は、ありえない』という事を知っているから言える言葉。 知っているけど、諦めない。 無知からくる言葉じゃない、 まっすぐに見て、彼は言う。 それでも、守りたいと… 『幸せ』を __人間は、醜い生き物だと思っていた。 簡単に嘘をつき、人を中傷し、罵倒する。 人が傷つこうか気にしない。 ただ、自分が楽しかったら。 それだけでいいと、思う生物でしかないし 所詮、だれかを助ける、募金するという行動も 嗚呼、こんな事をする自分って、なんで優しいのだと思い、悦に入っているだけではないか? もちろん、そうではなく純粋な善意でやっている人間もいる事も私は知っている。 彼を見て、それを理解していた。 それでも、私はこう思いたかった。 人は、所詮 身勝手で、傲慢で自己満足で生きる生物であると… なのに、彼は言った、また言った。 誰も悲しませたくないから助けたいと それは、そんな誰かをみたくないという自分勝手な行動でしかないというのは簡単だけど 結局他人の為に生きているという事でしかないという事でしかない。 人は、ヒーロー(正義の味方)にはなれない。 だから、そんな朝倉だからさくらは彼を『ヒーロー(救うもの)』と呼んだのだ。 誰かを、守りたい。 全ては無理でも、せめて自分が守りたいもの 手が届く範囲だけだとしても、守りたいと それが出来る人間は多いようで、限りなく少ない。 それは、言うのは簡単だ。 だが、それを実行するのは難しい。 だから 私は…そんなあなたが嫌いなんです。 __私には、出来ない事を 言えない事を、簡単に言い 実行できる君を羨ましいと思ってしまうから… だから 「弱者が__ 私は 朝倉に 鎌を 一閃した。 「え」 死んでしまえ __吼えるな」 そう思った。 ザァグゥ という音ともに 朝倉は、地面に這いずり回った。 「がっは」 俺は、地面にのた打ち回った。 激痛に、のたうち回った。 痛い、痛い痛い 「…………………」 『うたまる』が何かを、呟いた。 「…………。……」 言っていた。 でも、なにも聞こえない…イタイ、イタイイタイ 視界が段々と暗く染まっていく。 『うたまる』が鎌を天空に向け円を描くように、一閃した。 そして、それだけを見て 俺は 俺の意識は闇に堕ちた。 光などない、純粋な闇に堕ちていった。 円から光が、放たれ消えていく。 「…朝倉。お詫びとしていい事を教えてあげる 水面に浮かぶ月(幻想)を斬るためには__ 私は、水越 眞子を抱き上げながら 「本物の月(現実)を斬るしかないんだよ」 水越家の中に入っていた。 ふと空を、見上げると そこには、月が嗤っていた。 愚かな、私を見て嗤っていた。 「…」 __リン、リリン 春の風が、吹き抜けた。 桜の花びらが、乱れ散った。 桜の花びらは、風に乗り天空に姿を消した。 そして、いつの日か 地面に落ち 人に踏まれ、土に塗れ、醜い姿を晒す桜の花びら。 ふと、思った。 私のさくらの道も、所詮 醜く変わってしまうのではないか・・・ ……一体、弱者という言葉は誰を指す言葉だったのだろうか? その答は、きっとあなたの言葉で理解すればいい エピローグ の前に閑話休題 「死に神は『死ぬべきではない人間に、傷一つ負わせること』が出来ません。痛みだけはあるみたいですけど………」 場所は、だれもいない屋上。 時間は、放課後。 俺と『うたまる』否 希だけが、そこにいた。 あれから二日立った。 丸々二日寝ていた、俺が学校に行くと 眞子に 『萌先輩』の容態がもとに戻ったことを聞いた。 その事を話す。 眞子の顔は、嬉しそうに顔をしていた。 ただ、ひとつ気になる事があった。 眞子が言っていた言葉だ。 「姉さんが言うには、啓君が夢に出てきて生きてくださいといわれたんだって」 「『啓君』と『萌先輩』を合わしてくれたのか?」 その言葉に希は笑みを浮かべながら 「していませんし、できません」 「え」 俺は、その予想外の返答に思わず唖然した。 「え、でも」 「最初は、そのつもりでした。でも『啓君』は、もう転生していて、不可能でした」 「え、なら、どうして」 「私が、『啓君』の姿に変化して『萌先輩』にこう言ったんです__ そう言い 希は、声色をがらりと変えて まるで、少年の様な あの夢で見た。『啓君』の声で 「__自分の分まで生きて 僕は君が生きている事が嬉しいんだ。僕は君を悲しませるために、死んだわけじゃない…… そうしないと僕は、いつまでも君が心配であの世にいけない…と」 言った。 「……………」 俺は、その言葉を聴いて、唖然とした。 騙したのか?そう一瞬だけ思った。 ………でも、いいか『萌先輩』は今、前をまっすぐに見つめ生きているのだから そう、眞子が浮かべていた。笑みを思い出してそう思った。 生きているのであれば……生きているのだから…………結果よければという事で ………? ちょい、待ち 「おい、今、最初はって言ったな。最初から助けるつもりだったのか?」 その言葉に、希は小悪魔の顔で 「はい」 そう言いきった。 「なら、どうしてあの時あんな事を言ったんだ。それになんで、俺を気絶させる必要が__ と言おうとした。 だが、唇を塞がれなにも言えなくなった。 なにで、希の唇で 「なっなっななな」 突然の出来事に驚きまくる俺に、希はまっすぐな瞳で 「君の事が、死ぬほど__ 希の瞳がどこまでも冷たく見えた。 __憎むほど嫌いだから…」 ギィ・・ィィン、ガチャン。 そう言い、うたまるは、唖然とした俺を置いて、屋上から出て行った。 「………かったりぃ」 何とか搾り出した、その言葉は春の風が消えてしまった。 閑話休題終わり エピローグ 「あれ?芳乃さん」 階段を下っていると、『白河 ことり』に出会い。 ことりは、親しそうに笑みを浮かべ私に話しかけてきた。 「朝倉君が、どこにいるかしりませんか?」 「彼なら、屋上にいます」 ありがとうといい、屋上へと向かう階段つまり、私の横を通り過ぎようとした。 『白河 ことり』の進路を手でふさいだ。 「なんですか?」 「………なぜ、笑えるのですか?私は、貴女と朝倉を殺そうとした人間__ 遮るように 「誰も、貴女の事を恨んでいないよ……だって、希は操られてい__ 『白河 ことり』が、優しい声で言った。 私は、その言葉を 「違います」 否定と言う言葉で、遮った。 「え」 「確かに私は操られていた……操られていたから許しを得ることを出来ないけど…確かに操られていた。 でも、あなた達だけは違う……私は、朝倉が好きだから__ 嫌い…嫌い嫌い、大嫌いだ、そう思ってきた。 でも、愛している いつからだろうか? 私は、朝倉に恋をしていた。 私が、もっていないものを全てもっているから? 私が見てきた。 醜い人間にはない、清らかな魂を持っていたから? それとも…わからない でも、私は確かに朝倉の事を愛している事には変わりなかった。 だから、あの時 誰よりも、強く私の心を打ったのだ。 君を愛しているこの私の心を 君の言葉だけは、無視できなかった。 __嫌いになりたかった。なら悲しむ必要なんて……こんなに苦しみ事はなかった」 もし、君の言葉で私の心が揺れる事がなかったら 「こんなに、心苦しみ必要なんてなかった。私は朝倉を嫌おうと思った」 私は、さくらの言葉など聞こえず 「でも、私は朝倉の事が好きだ。どうしようもなくだから__ こうして、ここにいる事などなかった。 __貴女を憎んでいた、憎んでいる。嫉妬したから、嫉妬しているから、だから分からないの。もしかしたら、悪霊に憑かれていた事など関係なく、私は貴女を殺したかったのかもしれない。だから私に笑いかけないで__ 私は、この人にだけは笑いかけてほしくなかった。 貴女達の幸せを見たくなかった。 嫌ってほしかった。 「私は、あなたに憎んでほしかった」 無視してくれたら、よかったのに そうであれば、そうであれば__ 「自分を惨めだと思うことなかったのに」 水面に石を投げても、水面に浮かびし月は消えないのは分かっている。 水面(朝倉 純一の心)に浮かびし月(白河 ことり)を消すために、 貴女(月)を殺したいと思ってしまう、この私を嫌って欲しかった。 なら、ずっとこの気持ちを隠し続けることが 闇の中に消すことができたのに あなたの笑み(光)で、照らされる事(嫉妬心)なんてなかったのに ギュ 「え?」 『白河 ことり』が、私を抱きしめてきた。 余りにも、唐突に 自然なままに 私は、動けなかった。 動くことが出来なかった。 否、動かなかった。 ふわりと、羽毛も様な『白河 ことり』の髪が私の顔に触れ 『白河 ことり』の匂いが、私の嗅覚に優しげに刺激した。 「友達を、憎む事なんて出来る筈がないですよ」 そして、微笑みながら呟いた。 「白河、ことり?」 「私は、希の事すきですよ」 その言葉に私は さくらが言った言葉を思い出した。 その言葉が、静かに私の心に染み渡っていく。 『白河 ことり』が、私から離れ私の横を通り過ぎていていく。 私は、ただ見送ることしか出来なかった。 体が、反応できなかった。 「あ、でも朝倉君は渡しませんから」 天真爛漫、太陽の様な笑顔を私に向け カツンカツンカツン 『ことり』が、階段を昇っていき、姿が見えなくなって そして ガチャン という屋上の扉が開く音が聞こえた。 「………はぁ、勝てないな」 私は、そう呟き 「……痛いよ、さくら」 瞳から、涙が零れ落ちていくのを感じた。 __その涙が、悲しみなのか嬉しさなのか 私には区別できなかった。 「ねぇ私は、君の事を好きでいてもいいのかな?」 一生懸命、君を嫌おうと思っても、嫌うことができない。 この罪に塗れたこの私が…… その問いに、誰も答えてはくれない。 でもただ、朝倉なら この私の問いに、私が本当に望む答えを言ってくれる気がした。 「サルメ曰く『愛されなかったと言うことは、生きなかったことと同義である』…か」 いつの間にか、私の口元には小さな笑みが浮かんでいた。 涙は、もう流れていない。 キーンーコーンーカーンーコーン 「さてと、次の授業はなんだ…っけ」 そう言い、私は一人 歩き始めた。 私の名は、芳乃 希 例え、目の前の道が 幸せであり続ける事を、希望を信じる者 だから 私は、前に進む このさくらの道を そして 少女の口から笑みが零れた。 全てを魅了する月の様な優しい笑みが 誰かが、死ぬ それは、必ず起きる それを、どう対処するかは人の自由だ。 思い続けることも 忘れることも でも、これだけは忘れてはならない その人の分も生きなければ成らないことを 決して、過去に執着し 前を歩むことをやめてはいけない あなたはいきているのだから…… 春の晴れた日曜日。 俺は、ことりと商店街を歩いていた。 「朝倉君」 「なんだ、ことり」 「別に…ただ、名前を呼んだだけです」 「?」 「あはは、気にしないでください」 そう言って、笑う。 ことりの笑顔はどこまでも、嬉しそうな顔をしていた。 ………まるで、名を呼べるだけで幸せだという笑みを浮かべていた。 「ことり」 だから、俺は恋人の名を呼んだ。 「なんですか?」 「別に、名前を呼んだだけ」 そう言い、俺は笑みを浮かべた。 幸せを噛締めながら 「もう……って、あれ眞子と萌さんですよね?」 その言葉に 「え?」 俺は、商店街の一角を見た。 そこには、笑顔を浮かべて歩く。 二人一組の少女。 その二人の顔に刻まれているのは__ 「本当に仲のいい姉妹ですね」 __心からの笑顔。 純粋すぎる、まじりっけなど無い澄んだ雪解け水の様な笑顔だった。 「そうだな」 俺は、そう言い 「本当に__ 「お姉ちゃん」 「うん、なに眞子ちゃん?」 「今日、晩飯何にする」 「うーん、キムチ鍋にでもしましょうか?」 「えー」 「あれ、眞子ちゃん、辛いの食べられるようになったのではないのですか?」 「まぁ、そうなんだけど、たまには鍋以外のものも食べてみたいなって」 「そうですね。なら湯豆腐でも__ 「お姉ちゃん、人の話、聞いてた」 「え、なにがですか?」 「はぁ………まったく」 __幸せそうだな」 二人の少女に、笑みを送った。 いつまでも、幸せでいてください。 そう、願いながら。 「朝倉くん、どうしたんですか?」 ことりが、俺の顔を覗き込んでいた。 俺は、肩を竦めながら 「考え事。今日の晩飯、鍋がいいかなって……さぁ」 適当に言葉を濁した。 「一人で、鍋ですか?」 ことりが、怪訝そうに顔をした。 そんなことりに、苦笑しながら 「ことりは、食べないのか?」 と言った。 「え?」 ことりが、一瞬だけ驚いたような顔を浮かべたが 「そうですね、今日は鍋がいいですね」 嬉しそうに、笑みを浮かべた。 その後、俺はことりと手を握り 散っていく、桜が絨毯のように敷き詰められた道を帰る…途中、なぜか 眞子と萌先輩と美春と杉並に掴まり、そしてゴールデンウィークで戻ってきた音夢達と一緒に鍋を食べる事になるのだが、それはまた別のお話 あとがき 最後まで、読んでいただきありがとうございます。 …それとも、最初に後書きから読んでいる人。 後書き読んでいただきありがとうございます? 前書きで書いたとおり。 この話は前作の補足。 つまり 『うたまる』を救うとき、なぜ『朝倉』がヒーロー役に選ばれた理由を補足しようと、この話を書いたのですが…分かっていただけましたでしょうか? とそれは、置いとき 『うたまる』が健気なキャラクターに 本来は、もっと極悪なキャラクターにするつもりだったのですが……… それも置いとき この話は『萌先輩』と 『人はヒーローになれない。でも救う事はできる』という言葉を軸に展開しました。 …このssを読んで頂いた人の中に『水越 萌』好きの人がいて、こんなの萌先輩じゃないと言われるのではないかと、心底どきどきしていたりします。 所で…結局の所、この話の本当の主人公って誰なのでしょうか? 『朝倉 純一』なのか『芳乃 希』なのか、それとも・・・ 実は、書いている本人ですら分かっていません(おいおい。 ただ、読んでくださった人が主人公だと思った人が主人公なんだろうなと、思っています。 さて、そろそろ後書きを終わらせていただこうと思います。 それでは、本当に最後まで読んでくれてありがとうございました。 楽しんで頂けましたでしょうか? それでは 「また、どこかで逢いましょう」 平成17年12月4日 無銘三代目 追記 『人はヒーローになれない。でも、救う事はできる』 これには、続きがあります。 『だが、他人は救えない。救えるのは己の心だけだ』 救われない言葉ですね。