「うわぁ・・」 脱衣所の扉をあけるとそこは夢景色だった。 どこかの有名な温泉の様な露天風呂がそこにはあった。 「本当にこれは"家"ではないわね、確かに屋敷だわ・・」 ─チャプン お湯が温かい。 暖かいのはお湯だけではなかった、私は何か、心まで温かくなった気がした。 ------------------------------------------------------------------------ 俺のいきつけの肉屋「とんちんと」に到着する。 ちなみに店の名前は珍しいのだが由来をきいてみても誰も教えてくれない。 ここの親父さんと俺は結構な付き合いでここのメンチカツ(1個100円)は絶品だ。 「おう、きょうちゃん、いらっしゃい」 「焼肉するから適当につめてくれ、そうだな、5人前ぐらい」 「お、今日は焼肉パーティーかい?」 「まあ、似たようなものかな」 ・・・今思うと5人前は多すぎたかもしれない。 「あ、そうだ、田舎の親戚から野菜が沢山送られてきてね、よかったらもってってくれ」 ─お。 「それは助かる、いつもわるいね」 「なんのなんの。キャベツにたまねぎに椎茸。これだけあれば十分だろ」 そういうと親父は袋からはみ出そうなぐらいの野菜と、肉を俺に渡す。 一体、本当に俺は肉屋で買い物をしたのかというぐらい。 これでもう、野菜をかわなくてもいいな。 早く帰ろう。 ------------------------------------------------------------------------------------ ─ジュージュー 肉のやける音と、いい匂いが広がる。 ここは2階のテラス。 涼しい風と、眺めのいい自然の景色がよりいっそう食欲をひきたてる。 「・・・貴方、毎日こんな豪勢なことやってるわけ?」 彼女が怒ってるんだかよくわからない表情でいう。 「まさか。今日は君の歓迎の意味もこめて、こういう形にしたんだよ。1人で焼肉なんかしてもおいしくないよ。」 ・・・そう、俺は豪華なものが嫌いなわけではない。ただそれを共感できる相手がいなかったから─ 「あ、なんか気を使わせちゃってごめんなさいね。私のほうからおしかけたのに。」 「いいって。いいって。どうせ今までろくなもの食べてないんだろ?」 彼女が赤面する。耳まで赤くなっているのが分かる。 「・・ぐう・・なんでそれを・・・」 ・・・さっき自分がきのこの類は飽きたっていってたじゃないか・・。 「あなた、さっきから椎茸ばっかりね。そんなにすきなの?」 「ああ、俺は椎茸が昔から大好きでね。食べる?」 俺が聞くと彼女はブンブンと首をよこにふり「もうきのこは嫌〜」といっていた。 ------------------------------------------------------------------------------------- 豪勢な焼肉パーティーの後片付けをする。 彼女は厨房で食器を洗い、俺はバーベキューコンロを片付ける。 俺は片付けはいいから部屋でゆっくり休むように言ったのだが 世話になりっぱなしは嫌だということで手伝ってもらっている。 コンロを片付けながら、今まで一人だったせいだろうか。 共同作業というのがどうしようもなく暖かく、そして優しい気がした。 俺にいきなり斬りかかって来た少女、それを見切り、そして太刀をとめた 水節恭介。 異様な光景だな、と不意に、笑いがこぼれた。 ------------------------------------------------------------------------------------------- 『じゃあ、お手合わせ願おうかしらね。』 と言い出したのは彼女のほうからだった。 俺は別に剣術の達人でもないから、と一度は断ったのだが無言の抗議の末、敗北した。 俺達はさっき焼肉をしたテラスで打ち合いをすることになった。 「でも、真剣はやめてくれよ。奇跡が2度も3度も続くとは限らないから。」 というとかのじょは細い目をして 「月下流は殺人剣じゃないわ。どちらかといえば"気"を扱う剣術よ。確かに喰らってしまえば力がはいらなくなってしまうけど、即死はないわ。まあ、放っておくと危ないけど、それに貴方だって月下流の剣術つかってたじゃないの。それぐらい知ってるでしょう?」 「知らないよ。あれは俺の意思じゃなかったんだから。」 ・・・正確に言えば俺の意思で動いたものだったが、俺がそうしよと思ってやったことではない。なんというか、確かに俺がやったことなのだけど、その行為に自身がもてない感じだ。 「─ま、いいわ。いくわよ」 というと彼女は僕に向って目に映るのがやっとの速さでやってきた── ------------------------------------------------------------------------------------------------ 彼は言った。 自分の意思でやったものではないと。月下流なんてしらないと。 ・・それはおかしい。 月下流は私達、こっちの世界では名のしれた流儀で、"敗北無き剣技"と言われていた。 だから私の師は最強だと様々な人から恐れられていたし、色んな教会から目を付けられていた。 さっきも彼に言ったのだが、月下流は殺人剣ではない。 "気"を使う剣術で、普通の人、たとえ剣道の達人であろうが真似ることはできない。 つまり、彼が月下流の継承者であることは間違いないのだ。 でも、彼は知らないという。それはありえない話。 しかし、彼が嘘をついているようにも見えない。 ──なんて矛盾。 とりあえずこの答えは置いておこう。 剣を交えてみれば、分かるかもしれない。 「─ま、いいわ。いくわよ」 私は彼に渾身で斬りかかった── ------------------------------------------------------------------------------------------------------ 「─月下波瀾」 彼女が渾身の一撃を放つ。 木刀だからまあ当たっても死にはしないな、なんて甘い事を思った。 なぜなら、先日と違ってまったく太刀が見えないのだから。 ─バーン 木刀と木刀のぶつかる音がする。 ─しかし、それは俺が太刀を見切って止めたからではない。 俺の手にもっていた木刀が飛ばされただけのこと─ 視界がゆれる。 左手───機能停止 右手───機能停止 呼吸───異常なし 左足───機能停止 右足───機能停止 ─ドサリ 瞬間、世界が真っ暗になった。 -----------------------第5話へ続く 『星に願いを─月下編─』第4話