「あは─ははは」 岩城理紗(いわぎりさ)は笑っていた。 彼の前では平然を装っていたのだが、それもどうやら限界らしい。 「奥義が・・・なぜ─」 ・・・突然現れたえたいのしれない男の前に敗れてしまったのか。 それに彼には全くといっていいほど殺意がなかった。 彼は私の"敵"ではないらしい。 私の剣術の流派は"─月下流" 初めて逢った人に渾身で奥義をうつ私も私なのだけど─。 私があの時討った奥義は「月下波瀾」。 月光のように刃をひからせ、そして17箇所の急所を即座に突くといった奥義だ。 それを丸腰の彼は、交わすどころか、素手で止めてしまった。 「─師匠、私はやはり向いていないのでしょうか?」 師匠からもらった刀。折れてしまっているけどその刀からでるオーラは未だ健在であった。 「─でも」 私はためらう。これを口にしてしまうと何かが 壊れてしまいそうだから。 ・・・ 「─もういちど、彼に、会いたい」 ああ、口にしてしまった。 幼い頃から剣をふるっていた私にとって異性など関係のないこと。 ─でもなぜだろう 彼に会いたい、逢ってどうしようということもないのだけれど。 ----------------------------------------------------------------------------------- チュンチュンチュンチュン 今朝も鳥のなきごえで目が覚める。 ─ああ、今朝もきもちのいい朝だ。 『貴方は・・関わってはいけない世界なのよ─・・。』 昨日の彼女の言葉が思い浮かぶ。 ・・・本当に意味がわからない。 まるでそう─おれが普通の人間ではないような言い方だ。 それに俺がなぜあんな─剣技を_止められた、_のか。 考えようとすればするほど俺の頭の中はパニックに陥る。 「よし、もう考えるのはやめにしよう。」 いくら自分の中で考えたところで俺の納得のいく結論はでないだろう。 ・・・やはり昨日の彼女にあって直接聞くしかないか。 また斬りかかられそうでちょっと不安だが。 そうだな─奇跡が2度起こるとは限らない。 俺は倉庫から護身用にしまってあった木刀を手にする。 「─まあ、あくまで護身用ってことで。」 誰に言い訳をしているのか自分でもよくわからずつぶやく。 誰かに何か言われたら剣道部ですとでも言っておこう。 ------------------------------------------------------------------ 「・・・あった」 やはり俺には見える。 彼女は結界がはってあって普通の人には見れないのだといっていたが残念なことに 俺にはどうやら見えてしまうようだ。 ─ギギギギ 重い扉を開く。 するとそこに昨日の彼女の姿があった。 ・・やっぱりここにいたんだ。 『─もういちど、彼に、会いたい』 「え?」 それはどちらの声であったか。 --------------------------------------------------------------------- 「─な・・」 嘘だ、信じられない。 嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ嘘だウソダうそだ─! 「・・えーえーっと・・」 彼が困ったように口にする。 「─斬る」 「ちょ、ちょっと!そんな滅茶苦茶な・・・!」 ・・・自分でも滅茶苦茶だとおもう。 でもほかに思考回路が回らなかった。 「奥義・・!げっ─」 とそこで私の口、いや動きが止まった。 だって、 「─月下氷雷」 と鋭い目つきで私の師匠の得意だった技、秘剣を私にうってきたのだから。 ------------------------------------------------------------------------ 「─斬る」 「ちょ、ちょっと!そんな滅茶苦茶な・・・!」 ・・無茶苦茶だ。 彼女は俺に会うなりいきなり斬ると宣言したのだ。 護身用にもってきた木刀を構える。 ・・・おかしい。 彼女の太刀がスローモーションのようにみえる。 ・・・とりあえず、彼女を止めなきゃ。 そう思った俺は無意識のうちにこう告げていた。 『─月下氷雷』 なぜだろう、本当にわけがわからない。 腕は勝手にうごくし、目は彼女の太刀を見切っている。 しかし、別に誰かに操られている感じはしない。 そう、紛れもなく俺の意思でうごいているのだ。 ─カキン 彼女の得物が中に舞う。 刃が折れているため地面に突き刺さる事はなく、カランカランと地面に転がった。 「─そんな」 それは彼女の嘘であってほしいという悲痛の声であっただろう。 「ご、ごめん、君がその、斬って来るから・・・」 俺だって死にたくはないと思って、抵抗したつもりだがなぜだろう。 ・・・こう、奥にある血が騒ぐような感覚は。 「・・信じられない。なんだってのよ、貴方。」 「そんなの俺が聞きたいぐらいだよ。いきなり斬りつけられるわ、普通なら止められるはずのない君の太刀を見切って止めてしまうわ・・。」 「・・・貴方、自分の意思で動いてるんじゃないの?」 「いや、自分の意思で動いているのは間違いないんだ、ただ、俺はこんな能力があっただなんて今まで自分自身でも知らなかったのに、さっきの技だって体が勝手に動いたんだ。」 「・・・からだが勝手に動いたですって?じゃあ私が10年間修行してきた日々はなんだっていうのよ!」 ムカーという効果音でもでそうな位彼女は怒っていた。 自分にはよくわからないけど、確かにいきなりやってきたおとこが わけもわからず技を放って、それにまければ確かに俺でも彼女と同じ気分になるだろう。 「その、ほら!きっと自己防衛本能ってやつが働いたんだよ、きっと」 「─」 ・・・視線が痛い。 彼女がつまらない。とでもいいたそうな目で俺を見ている。 「・・まあいいわ。」 はぁとう溜息を突きながら彼女が近寄ってくる。 「で─」 ・・・まずい、これはまずい。 遠くからはよく見えなかったが近くでみるとすごく美人だ。 ・・・この距離は、ちょっと、男として、まずい、いや、おいしいのか ─ああああああ、わけがわからない 落ち着け、おちつけ。 「貴方─なんでここにまたきたのよ?」 「─え?」 ・・・そうだ、俺は何をしに、ここに、きたのか─。 1. 彼女をまた見たくなったから。 ─これは否定できないかもしれない 2. 暇だったから。 ─何が哀しくてせっかくの休日に学校の裏庭なんかにくるのだろうか。 3.『貴方は・・関わってはいけない世界なのよ─・・。』と言った彼女があまりにも悲しい目をしていたから。 ─そうだ、これだ。 確かに俺のこの不思議な力の事も気になる。 ただ、昨日の彼女の目があまりにも─── 「そうだな、正直にいうと君を放っておけなかった。」 「・・・え・・?」 「だって・・・」 ─ちょっとでも触れてしまえば壊れてしまいそうな、そんな感じ─ 「まあ、とにかく俺は君が何をしてるのかしらないけど俺に出来る事があれば力になりたいな、っておもったんだ」 -----------------------第3話へ続く 『星に願いを─月下編─』第2話