『君、桜散ること無かれ』

桜。
ただそれは悲しく──
ただそれは嬉しく──
各々の想いを叶えるべく舞うこの桜の木。
そして今日も、想いを叶え続ける──

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『……くん、……とうと君』

誰かが俺を呼ぶ声がする。
だけども俺は、この布団の気持ちよさにそんな声は無視して眠ることを決めたのである。

「……おやすみ」

そう一言だけ俺を起こしてくれたらしき人物に挨拶して再び眠りにつこうとする。
──が、当然の如く俺の睡眠は妨害されるわけで……

「もうっ、おやすみ。じゃないよ弟君、時間ないんだからさっさと起きる!」

そういって声の主──音姉が俺の布団を一気に剥ぎ取る。
……。
俺は頭の中でこの現状をどう回避すべくか会議を開始する。
音姉から布団を取り戻して再び眠りへと付くのか。
それとも諦めてさわやかフレッシュに起きるのか。
……それともちょっと音姉で遊ぶか。

「……ふっ」

俺は思わず、杉並のような笑いをこぼす。
そうだな、折角昨日から恋人同士になったんだ、これぐらいの茶目っ気は必要だろう。

「……ごほん」

音姉は何がなんだか分からないようで、キョトンとしていた。

「弟君、いつまで寝ぼけてるのはやく──」

俺は音姉が言い終わる前に、音姉の両肩に手を着く。

「ちょ、ちょっと弟くん?」

音姉があわてたような、照れたような感じで俺に問う。
うっしっし。
俺はこれから発展すべく展開を予想してニヤニヤしながら

「…音姫」
「……え?」

そして俺は音姉を両腕で抱き

「……結婚しよう」

と音姉の耳元で囁いた。
うっひっひ。
これで、音姉はあわてふためくに違いない。
全く、可愛い奴だぜ。

「……?」

しかし、音姉は俺の予想のように慌てふためくこともなく
俺の胸に埋もれていた顔をあげ、頬を紅くそめて上目遣いで──

「……はい、よろこんで」

なんて言いやがった。

「ちょ、お、音姉!?」

さすがに俺もこんな展開になるとは思わず、
俺の脳内マニュアルではどう対応していいのか乗っておらず
音姉をあたふたさせるつもりが、逆にこっちがあたふたする事になってしまった。
……えーっと、どうしよう?

「……嘘なの?弟君、嘘なの?」

音姉が泣きそうな顔をしながら上目遣いで俺の顔をじっと見つめてくる。

「……いや、そのいつかそうなればいいなぁと思って言って見ただけなんだけど……」

さすがに音姉のこんな顔を見てしまっては「あ、ごめん今の冗談」なんていえる雰囲気ではなかった。
そんなことを言えるやつがいるとするのなら、よほどの鈍感かよほどの馬鹿だろう。
……まあ、後者については俺も否定できないのだが。
ともかく、俺には今更音姉以外の人と付き合うなんてありえないことだし
このまま行けば音姉と……その……けけけけけっっこんするわけだし……まあ、あながち嘘ではないかな…。

「……じゃ、早く着替えておりてきてね」

という音姉をよそに俺はこれから築いていくであろう音姉との家庭を妄想しながら
ニヤニヤした顔が戻らなくなっていた。
ま、まだ昨日付き合い始めたばっかなのに気が早いよな、俺も……。

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ああ、本当に幸せだったんだ。俺は。
音姉の事を考えてるだけで俺は空の上にいるような、そんなキモチになれた。
だけど、そんな幸せは、長く続かなかったのだ。

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「あ〜眠い」

今朝は、音姉が先に行ってしまったということで
俺と、由夢は同じように大あくびをかいていた

「お前な、こんなところで欠伸してたらお前の素性がバレるぞ」

そう、こいつは一応、学校では“優等生”で通っているのだ。
……全く、家でのこいつをみたら皆どう思うんだろうな?

「や、大丈夫だよ、兄さんにしかこんなところ見せないから」

そういって由夢はまたもや大あくびをする。
……いつか、こいつの素性がバレますように……。

「ところで兄さん」

由夢が急にしおらしくなる。
……一体どうしたんだ?

「なんだよ」
「えっとね、その、姉さんと最近うまく行ってないのかなって……」

……。
そう、最初は気のせいだと思ってたんだ。
いや、現に今も由夢に言われなかったら気づかないフリをずっとしていたのだろう。
何やかんや理由をつけられて、俺はここ最近音姉に避けられているのだ。

「何かしたの?兄さん」
「いや、全く持って心当たりがないんだが……」
「そんなこといって、エッチな事しちゃったりとかしちゃって……」

いやいやいやいやいやいやいや

「ばっ、何いってんだよお前、そんなこと出きるわけないだろ!」

俺があわてふためきながらそういうと、由夢はどこか満足げに

「そっかー、兄さんにそんな甲斐性ないもんね」

とどこか嬉しそうに言っていた。

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「あ〜、弟君」

学校に着いて下駄箱に靴をしまって教室に向かう途中、まゆき先輩から声をかけられる。

「あ、おはようございます」
「うん、おはよう」

そういう先輩はどこか、元気がなさそうでなんというんだろうか。
いつものような覇気というかが感じられない。

「えっとね、言いづらいんだけど……音姫の事……」

俺の心臓がビクンと羽上がる。
そう、“俺が音姉に避けられている”という現実を再び自身が認めてしまった──
いや、思い出してしまったからだ。

「はい、音姉がどうかしましたか?」

俺は極めて自然な感じで問い返す。
そしてまゆき先輩は尚、顔を伏せて言いづらそうに

「最近、おかしいんだよね。音姫。
 何をやっても手付かずって感じでさ。私が話しかけると笑顔で相槌を打ってくれるんだけど
 それもどこか空元気でさ。
 そして、弟君の名前を出すたび辛そうに、今にも泣き出しそうな表情をするのよ」

……。
やはり、俺は音姉に対して取り返しのつかない何かをしてしまったのだろうか?
まさか、数日前のあの朝の冗談が?
いやいや、でもあの後数日は普通に会話してたしな……

「だから、弟君と音姫の間で何かあったんじゃないかと思って……」

俺が自問自答を繰り広げている中、本当に心配した様子でそう言った。
そして少し、ここまで親身に心配してくれる友達がいて音姉は幸せだな。とふと思った。

「いや、それが俺にもさっぱり原因が分からないんですよ。急に俺を避けるようになって……」
「うーん、とりあえず、謝って見たら?私がセッティングしてあげるからさ」

……確かに。
俺が何をしたのかは分からないが、とりあえず今の音姉に何か原因があるとするのなら
俺が関わっていることは先ず間違いないだろう。
一度ちゃんと話し合って、俺が何かしてしまったのならば謝らなければ……。

「でも、俺も幾度となく音姉と話をしようとしたんですけど全然ダメで……。
 大丈夫ですかね?」

俺がそういうとまゆき先輩はさっきとは打って変わって

「大丈夫、アタシに任せときなって。というわけで、昼休み生徒会室にね」

そういってまゆみ先輩は走り去っていった。
……あの人、廊下は走るなとか散々言っておいていいのだろうか?

「……はぁ、兄さんも中々修羅場ですね」

いつからそこに居たのか、後ろから由夢がしみじみと言う。

「まあ、ともかく昼休みになんとか話してみるよ」
「そうしてください。私も家でなんとなく姉さんと接しづらいんですから」

そういって俺達は階段で別れた。
さて、昼休み、果たしてどうなる事やら……

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結論から言うと。
音姉は生徒会室には居なかった。

「音姫には今日も一緒にお昼食べようってここで待ってるように誘ったのに」

まゆき先輩が言う。
……。
まあ、こんな事で俺と音姉が話ができるなら俺はとっくにこのもやもやした感じが解消できてるだろう。
純一さんに音姉となんとか話をさせてくれと相談してみても「かったるぃ」の一言で終わり。
由夢はどうも家でも音姉と話すことがないらしく、また、話しかけづらい雰囲気であるようだし……。

「マジで一体どうしたってんだよ、音姉……」

俺は思わず、心の中の囁きを口にしてしまう。
まゆき先輩は何か思いつめたような、そんな表情で俯いている。

「先輩、先輩がそんな表情(かお)する必要はないですよ、俺達の事ですから」

俺は本当に自分の事のように心配してくれているまゆき先輩を見かねてそういった。
だって、俺よりまゆき先輩のほうが苦しそうな表情をしてたし。

「……何か」
「え?」
「嫌な予感がするわ」

まゆき先輩が触れたくないものに触れてしまうような、そんな表情で言う。

「嫌な予感って?」
「なんていうのかな、音姫の存在が薄れていくような、そんな感じ──」

……。

「大丈夫ですよ先輩、きっと何とかしますから」

俺はそういって生徒会室を後にした。
そうだ、俺達の問題なんだ。
音姉に何が合ったかは知らない。
でも、それを一番先に聞いて、傍で支えてあげるのは俺の役目なんだ。
もう、誰にも頼らない──

そして俺は昼食もとらないまま、駆け出した──

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「あの、音姉……じゃなくって、生徒会長見ませんでしたか?」

俺は手当たり次第通り行く生徒に声を掛け、音姉の所在を聞くが誰一人として
音姉の所在を知る者は居なかった。
……くそう、何処行ったってんだ、音姉。
そして俺は再び駆け出し、念のため下駄箱に行き、音姉の靴があるかどうかを確認する事にした。

「無い……」

どれだけ走り回って探しても見つからないのは当然だった。
何故なら、音姉はどうやら学校に居ないからだ。

「くそっ」

俺はすぐさま自分の下駄箱から靴を取り、駆け出した。
音姉──!

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手当たり次第探した。
まず最初に家にいってみたが当然の如く居らず。
他にも商店街の普段俺が行かないような女の子向けの店やらスーパーやら
ありとあらゆる音姉が居る可能性のあるところを巡った。
それでも音姉と出会えることなく、もうすぐ日が暮れようとしている。
俺の座っているベンチの前の砂場では子供がせっせと帰るために玩具の片付けをしている。

「……音姉、どうしちゃったんだよ……」

近くの自動販売機で買ったブラックコーヒーを口につけながら俺はふと
昼間のまゆき先輩の言葉を思い出す。

『なんていうのかな、音姫の存在が薄れていくような、そんな感じ──』

不吉だし、信じたくもないけれど。
俺も今まさにまゆき先輩が思ったような、そんな事を思った。

「くそっ、何考えてんだ、俺は」

そして再び家に戻るとちょうど由夢が玄関に立っていた。
俺は極めて平然な顔で

「よっ、由夢。こんな時間に何してんだ?」

俺が片手を挙げ、笑顔でそういうと由夢は

「兄さんこそ、学校を無断で早退してこんな時間まで何をやってたの?」

そうか、俺無断早退だよな……。
とりあえず、何かいいわけいいわけ……

「ははは、実は熱がでちゃってさ、家にかえっても何もないんで冷たいものを買いにいってたんだ」

俺はとりあえず思いついた口からでまかせの嘘を言った。
すると由夢がとことこと俺の目の前に来て俺のシャツをつまみ、においをかいだとおもうと

「……汗くさい」

ともらした。
……確かに、ずっと走ってたから汗だくで拭きもせずにそのままだったから確かに匂うかもしれない。

「それに、息が切れてる」

……。
まあ、当然か。
由夢は分かってるんだ、俺が音姉を今日一日中探し回っていた事を。

「本当に兄さんはバカなんだから。そんなに姉さんに逢いたいならうちで待ってればいいだけじゃない」

……あ。

「そうか……俺はなんてそんな簡単なことに気づかなかったんだ……」

俺は一度家に帰り、風呂に入って汗をながしてから、音姉が帰るまで家で待たせてもらうことにした。

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「おそいな、音姉」

由夢と2人きりの居間。
TVでは新人お笑い芸人のネタが繰り広げられているが
普段ならゲラゲラと笑っている由夢(俺もだが)も今日はテレビを見る気もないのか
ただただ俯いていた。

「うん、いつもならもうとっくに帰ってる時間なんだけど……」

結局、心配になった俺達は音姉を玄関の前で待つことにした。

「わ、寒っ」

由夢が声をあげる。
確かにまだ昼は暑いぐらいなのだが、夜は少し肌寒い。
女の子は男より寒がりだと聞くから、きっと由夢もその中の一人なのだろう。
ちなみに俺は全然寒くなくて、むしろ涼しいぐらいだった。

「……ま、心と財布は寒いけどな」
「何言ってんだか」

しまった。
俺の心の叫びを口に出してしまった。
そんな馬鹿な会話をしながら一体どれほどの時間が経っただろうか。
少し離れた所、街灯の下に人影が見えた。
そう、それは間違いなく俺が今一番欲している者──、音姉だった。

「音姉っ──!」

俺はじっと待っている事が出来ず、音姉の元へと駆け出す。

「……弟、君」

音姉は何処か疲れた瞳で俺を見つめてくる。
やっぱり、音姉は何かを1人で抱えている。

「音姉、一体どうしたんだ?ここ最近の音姉はおかしい」

俺がそういうと音姉は何をいうわけでもなくそのまま俺の横を通り抜ける。

「音姉!俺に話してくれよ!1人で抱えないでくれよ!
 俺達、恋人だろ!?」

俺の叫びも通じなかったのか、音姉は一旦立ち止まって

「……私、疲れてるから」

だから、何で疲れてるのか俺に教えてくれよ!
と言いたかったが、いつもと違う音姉の声の低いトーンを聞いてそれは言い出せずに居た。
俺はただただ音姉の遠ざかっていく背中を見る事しかできなかった。

「姉さん!!」

ずっと下を俯いていた由夢が声を上げる。

「……由夢ちゃん、私、疲れてるの、だから──」
「だから何だっていうのよ!」

由夢の叫びが街灯の光で照らされた音姉へと向けられる。

「急に兄さんに冷たくなるし、かと思ったら私にもだし。
 ……何があったのかは知らないけど姉さんは卑怯だよ……」

それでも音姉は由夢の横を通り抜け、家へ入ろうとする。
由夢も涙目になりながら、もう何も言えないのかその背中を見つめる。

「……そうだね、私は卑怯なのかもしれないね」

そういって音姉は家へと帰っていった。
チクショウ。なんだってんだ、チクショウ──

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俺は、天井のシミを見つめながら考えていた。
俺はまた、閉ざされてしまった少女の心を開く事が出来るのか──

「できるのか?じゃないよな。やらないといけないんだ」

俺は自己暗示のようにそうつぶやき、目を閉じる。
しかし、目を閉じても眠れず、気がつけば音姉の事ばかり考えていた。

「なるほど、これは俺へ課せられた最初の試練ってところかな」

俺は再び目を閉じる。
そうして、俺の意識は闇へと狩られて行った。

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朝。
俺は音姉の抱えているもの、そしてこの冷たく悲しい現状にピリオドを打つべく
音姉が家から出て行くのを木陰に隠れながら待っている。
由夢によれば音姉は最近朝ものすごく早く家をでて、何処へいってるのかは分からないという。
ただ、最近の音姉と、音姉が向かう場所には必ず大きな接点があるはず。
そう思った俺は一時間ほど前から音姉が出てくるのを待っているというわけだ。

──ガチャ

「お、出てきたな」

出てきたのはやはり音姉で、家の前で一度振り返り、俺の家──
つまり芳乃家を見上げて

「バイバイ、弟君」

なんて、信じられないような言葉をなげかけた。
バイバイって何だよ!何なんだよ!
俺はすぐに飛び出て音姉を抱きとめたい衝動を抑え、慎重に後をつけていく。

時折すれ違う犬の散歩をしているおじさんおばさんに不思議な目で見られながらたどり着いた。
初音島の奇跡、魔法の桜の前に。
俺は音姉に気づかれないように木陰を伝って迂回しながら反対側の幹へと回る

「私がやらないと、しょうがないんだよね」

そういって音姉は桜の幹へと手を掛ける。

「……でも」
「どうして、嫉み、憎しみ、そんなどうでもいい願いは叶えて私達の想いは叶えてくれないのかな」

音姉の姿は見えていないけど、きっと音姉は今俯いて涙を流しているだろう。

「でも、それも今日で終わり」

そういって音姉は

「……さようなら、弟君」

と、涙声で言っていた。

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「……さよならなんて、悲しいこというなよ」
「……え?」

俺は素早く音姉の後ろに回った。

「さようなら弟君なんて、そんなこというなよ」

振り返った音姉は、驚いた表情で涙をぽろぽろと流していた。

「……っ」
「事情は大体分かった……でも、どうして俺に相談してくれなかったんだ!」

俺は少し声を大きくして叫んだ。
だってそうだろ?
俺達の幸せはこれからだって言うのに、これから2人で色んな事を乗り越えていこうって言ったのに。
どうして音姉は一人で背負ってるんだ?
ほら、そんなのはおかしいだろう?

「私は、魔法使いだから」

さっきとはうってかわって、今度はキリっとした表情で音姉がそう告げた。
……ああ、そうか。

「……だから何だよ」
「え?」

そうだ、今更音姉が魔法使いだったってことに驚きはしない。
純一さんもだし、何より俺にも魔法が使える。

「魔法使い?そんなことはどうでもいいんだよ、音姉。
 俺は音姉の恋人なんだから、だから俺は音姉を助けたい。
 1人で何でもかんでも背負い込まないでくれ」

告げた。
真っ直ぐに音姉を見て、真っ直ぐなキモチを。

「……ありがとう、弟君。
 でも、これは私にしか出来ないことだから」

音姉がそういうと魔法の桜の木が光りだす。
そして──

「音姉!!」

音姉が、音姉の姿がどんどん薄れていく

「弟君、これは私から、弟君への最後の魔法だよ」

そういって音姉はとびっきりの笑顔で涙を浮かべながら

「──Thing nothing he whom you, a decoy are scattered to.」

「──、バイバイ、弟君」

そう、俺へ告げた。

「音姉!!」

─駆ける。


「まって、まってくれよ音姉!!
 こんなのって……こんなのってないだろ!!」

─駆ける。

「弟君、私が居なくなってもちゃんとやるんだぞ」

─駆ける。
音姉との距離が、今はこんなにも遠い。

─駆ける。

「そうだね……私が居なくなったら、気にしないで新しい彼女でも作って幸せにね。
 ……ちょっと、いや、かなり妬けちゃうけど、由夢ちゃんみたいな子ならお姉ちゃんは安心かな」

─駆ける。
待って、待ってくれよ!
俺は、俺は、本当に音姉の事を……

「愛してるんだ!!」

俺の叫びも空しく、目の前には枯れ果てた桜しかなかった。
俺は、結局、彼女を、重い使命を背負った彼女に、何一つしてやれなかったのだ。

「くそっ、こんなのってありかよ、くそっ!!」

桜の木を叩く。叩く。
何なんだよ、何でだよ、何なんだよ!!
折角俺達、恋人同士になったのに、折角想いが結ばれたのに。
この桜の木は人々の想いを叶えてくれるんじゃなかったのか?
ならなんで……憎しみだとか妬みだとか下らない想いばかり叶えて──
俺達の、ただ当たり前の願い
『恋人同士でずっと一緒に居たい』
なんていう些細な想い──願いは叶えられないんだよ!!

「……チクショウ、チクショウ──」

「……君、桜散ること無かれ」
「え?」

ふと、いつのまに居たのかサクラさんがつぶやく。

「義之くんへの音姫ちゃんからのメッセージ。
 この魔法の桜の花びら1つ1つは言わば人々の“想い”なんだ。
 その想いを、君は枯らせないでほしい。
 				  魔法
 それが音姫ちゃんから君への最後のメッセージ」

……。

「サクラさん」

「魔法使いって人に笑顔を与えるためのものなんですよね?」
「……そうだね」

俺は一度だけサクラさんに振り返り

「俺、このままじゃ笑えないっす」

そして俺はさっきまで音姉が居た場所──、桜の木下へ行く。

「俺に少しでも魔法の力があるのなら──」

俺はそっと桜の木へと手をつける
サクラさんは俺がこれから何をしようとしたのか気づいたらしく

「だめ、だめだよ義之君!君まで音姉ちゃんみたいに──」

消えてしまう。
とでも言いたいのだろうか。

「俺はどうなってもいい、だから音姉を返してくれ──」

ありったけの想いをこめて俺は呪文を唱えた。
俺は生粋の魔法使いでもないし、よくあるような呪文もしらない。
でも、この一言は俺に魔法の力があるとするのならば
何よりにも勝る魔法の呪文だった。

「義之君!!」

サクラさんが叫ぶ。
そして、自分の姿を見てみると──

「サクラさん、由夢の事よろしくお願いしますね」

俺の身体が薄れていくと友に、意識も薄れていく。
サクラさんが必死に何かを叫んでいるみたいだけど、もはや俺の耳に届くことは無かった。

──音姉、俺もすぐ傍にいくから

こうして、初音島のキセキがまた1つ幕を閉じた。

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『……くん、……とうと君』

誰かが俺を呼ぶ声がする。
だけども俺は、この布団の気持ちよさにそんな声は無視して眠ることを決めたのである。

「……おやすみ」

そう一言だけ俺を起こしてくれたらしき人物に挨拶して再び眠りにつこうとする。
──が、当然の如く俺の睡眠は妨害されるわけで……

……って、あれ?

「もうっ、おやすみ。じゃないよ弟君、時間ないんだからさっさと起きる!」

え?え?

俺はガバっと布団から飛び起きる。

「音姉?音姉だよな?」
「もうっ、まだ寝ぼけてるの?」

……。
ああ、そうか。
音姉の魔法、そして俺の魔法が叶ったんだ。
そして、今度は俺が音姉へ魔法をあげる番なんだ。

「音姉、結婚しよう」

今度は音姉の両肩をだいて、真っ直ぐに目を見つめて言った。
そして音姉は──

「……うん、もちろんだよ」

そういって頬を紅く染めながらそう言った。
こうして、今ここに一片の花びら──、想いのカタチがまた1つ実った──

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【あとがき】

え〜、サイト開設1周年記念でいよいよ初DC2SSを書いてみました。
音姉や義之が正しく表現できているか、心配なところですが
感想等があれば掲示板や拍手コメント、メールにてくださると嬉しいです