「・・・この魔法の桜の樹は、枯らせはしませんっ!」
ヒューッ──
夜風が、一層強く吹いた気がした。

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ボクが振り返るとそこには、黒いマントをかぶった
ボクと同じぐらいの女の子が居た。

「・・・キミは、誰?」
突然の事で、気が動転していたけど、なんとか声になった

「・・私はアイシア。皆を幸せにする、魔法使いです!」
「・・・魔法使い?」
“魔法使い”──久々に聞くこの単語に、少しだけピクリと反応する。

「・・そうか、キミだね?このサクラを再び咲かせたのは・・。」
「ええ、そうです私が調べたところによると、2年前、初音島で起こった様々な奇跡は──」

「そう、この桜だよ。」
そういうボクの声は、自分でも思うほどに酷く、つめたい声だった。
「では、なぜ、なぜ枯らせようとするんですか!」
「・・・危険、だからだよ」
「・・・そんなっ!魔法は人を幸せにするもので、絶対に危険なんかじゃ──」

「実際に今、この桜のせいで記憶がどんどん無くなっていってる人がいるんだよ!!」
思わず大きな声がでてしまう。
そう、この子は何もしらない。
魔法がどんなに危険なものか──。

「・・・う、そ。そんなの嘘です!」
ボクはこれ以上、この子に何を言っても無駄だと判断して、再びサクラのほうをむく。

ガシッ
後ろからつかまれる。
「ダメです、絶対に、折角咲いたこの桜を、枯らせはしません!」
はぁっ。
ため息がでる。
一刻の猶予もないのに、なんで邪魔がはいるんだろう?

「キミがどうやって、この桜を再び咲かせたのかはしらない。
 でも2年前、この桜を枯らせたのはボクなんだ。」

「魔法は、皆を幸せにするものです!その魔法で人が不幸になるなんてありえない!」
「だから、現にこの桜の魔法のせいで記憶を──」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それは貴方が願っているからでしょう?」

なっ──。
言葉が詰まる。
この子、アイシアは今なんて?

「・・・この桜の木は皆の願いを叶える木です、だからそれは
 ──貴方が望んでいるからでしょう?」

「──」
ごくり。
喉をならす

すぐに「そんなことはない」と言い返さないといけないのに──
そんな思いとは裏腹に、ボクは何も言い返す事ができなかった。

「また2年前の事を繰り返すんですか?
 あの時のように───」

「・・・なんで、キミが、それを──」
かろうじて出た言葉は、どうでもいいような事だった。

桜の木を復活させたということは同時に、2年前から止まったままの
時を再び動かしたという事──

ボクの心もまた、2年前のあのときから止まったままで、それが再び動き出したのだろうか?

「貴方は、桜の木を枯らせて、自分の気持ちに嘘をついて、逃げてるだけじゃないんですか?」
「確かに、この桜の木を枯らせてしまえば、魔法の効力はなくなって、
 彼──、朝倉純一は記憶を取り戻すでしょう」

そういうとアイシアはボクの横に立って桜の木を見上げる。
「それだけ、それだけなんですよ・・」

「私は、魔法でたくさんの人を幸せにしたい。そう思って勉強してきました
 そして、お婆ちゃんが死んだ後・・・
 何か困った事があったら芳乃さんのところへ訪ねなさいというお婆ちゃんの書き置きをみつけて
 それからこの初音島にきて、この桜の木の事を知りました。」

「・・・でもお婆ちゃんは・・・もう」
「・・・ええ、でも私は今更帰る場所もないし、毎日毎日この桜の木が再び咲きますようにと
 桜の木に魔力を注いでました、そして桜の木が咲いた瞬間にこの木に感する全ての記憶。
 それが私の中に入ってきました」

「だから、さくらさん、お願いです、朝倉純一の事を思うなら、
 きっぱりと諦めるか、それが出来ないなら追いかけるか。
 でも人を憎む(妬む)事だけはやめてください、
 魔法が逆の方向に働いてしまって、人を不幸にしてしまうんです」

「・・・」
言葉が出なかった。
何一つ反論できる事もなかったし、アイシアの言葉の1つ1つがボクの心の奥に染みた。

「・・・最初は、お兄ちゃんを想う白河さんを憎んで、今度は白河さんしかみていない
 お兄ちゃんか・・・。」

「・・・自分に嘘をついてはダメです。私は、みんなを幸せにする魔法使い。
 だから、さくらさんも幸せになれるように、私も手伝いますから」

──だから、純一を憎まないで。と黒いマントに覆われた白い肌の少女が言った。

「お願い、お兄ちゃんを、お兄ちゃんを元に戻して!」
ボクは精一杯の、心のそこからの、願いを込めて桜の木に叫んだ。

桜の木が一瞬、光ったように見えた。

「・・・どうやら、願いが通じたようですね。」
アイシアがボクの肩に手を置いて微笑む。

「・・・そうだね、ありがとうアイシア。」

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「・・・そうだね、ありがとうアイシア。」
そういうさくらさんは、笑っていた。
──今までが、嘘のように。

その日、私はさくら
(さくらが“さくらさん”はやめて、というので)
の家にお邪魔することにした。

これが、この長い長い物語の、始まりだとも知らずに──。

第8章へつづく。