次の日の朝。

「・・・・おはよッス」
「・・・おはよう」
─■が、悲しそうな目をしている

「こ・・とり、どうしたんだ?」
ああ、まただ。
喉につっかえて出てこない言葉。

「今日は、こんなに桜の花びらが・・」
起き上がると部屋全体に桜の花びらが散っていた。

・・・・あ、れ?

「ことり、ここはどこだ?」
「え?」
「・・どこ、って純一君の部屋じゃない・・」
「・・・・え?」
え?と言ったのはどちらだったか。
──ここが、俺の部屋・・?

が、しかし何度自分自身に問いかけても、ここはやはり俺の知らない部屋だった。
そして俺はこの日、何件もの病院に連れて行かれた。

しかし何処にいっても医者の言う言葉は一緒
         原因不明。
ただ、病名はハッキリしている。
それは俺自身の今日と、昨日の朝の症状からも自分自身で納得できる。
「──記憶喪失」
「・・・純一君」
ことりが、青ざめたような、今にも泣き崩れそうな表情をしている。
「・・・ごめんね、わたし、なにも、できな、くて」
ついに泣き出してしまった。
俺はそっと、俺の恋人である、白河ことりを抱きしめた。
──忘れてしまわない用に

「ことりのせいじゃない」
「・・でも、純一君、これから・・・」
ことりの先の言葉は分かっている“記憶を失っていくんだよ”だ。

最後にことりの姉、佐伯暦(旧:白河暦)先生のところに言った。
暦先生は、終始難しい顔をしていた。
それから、しばらくすると暦先生の旦那さんがきてくれたが
他の医者と一緒で、具体的な治療法や薬はないという。

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俺とことりは、夜の桜公園を歩いていた。
「ごめんね、何も、できなくて・・」
「いや、気持ちだけで十分さ」

・・・・・
「・・・どう、したの?」
ことりが、心配そうに顔を覗き込んでくる
「ホントのこというと、俺怖い・・・。」
「・・・」

「今朝、ことりの顔をみて、しばらく名前が浮かんでこなかった。
 俺、今日寝て、明日起きたときにはことりの事を忘れてるんだって思うと・・・」
頬に冷たいものが流れた。
俺は、泣いていた。

「・・なか、ないで」
ことりがハンカチで俺の涙を拭いてくれる。
「じゅ、純一君が、わ、わたしのこと、わすれるわけが、ないんだか、ら──」
ことりが涙でぐしょぐしょになりながら、俺を、抱きしめた。

「・・ああ、忘れないように、この温もりを忘れない用に、しっかり身体に覚えさせておくよ」
家(もちろん、朝倉純一、つまり俺の家だ)にかえると、ことりが冷蔵庫にあるもので
焼き飯と、スープをつくってくれた。

そして、何故だか今夜のことりは積極的だった
俺が風呂に入ると言えば、「私も一緒に入りますっ!」とかいって急に風呂にはいってくるし
俺が寝るといえば「私も一緒に寝ますからっ!」といって隣に入り込んできた

俺のベッドはお世辞にも広いとはいえない。
何せシングルベッドだから。
そのベッドに2人で寝ているものだから、せまい。

でも、嫌な窮屈感ではなかった。
すぐ近くに、ことりを感じられた。

俺達は電気をけして、仰向けに、手をつないだままだ。
「・・・起きてる?」
俺が呼びかける。
「・・・起きてますよ」
「もし、明日、俺をおこしたときに、嫌な想像だけど俺が記憶を無くしてことりの事を忘れてたらどうする?」
「・・・本当に嫌な想像ですね・・。でも、記憶が無くなっていたとしても、私は純一君の彼女さんですから。」
しばらくの沈黙の後・・
「絶対、絶対、思い出させてあげるんだから・・」

「・・ことり」
「・・はい?」
「好きだ」
「・・・私も」

こうして俺は、何か暖かな物を感じながら眠りについた。

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夜の桜公園。
──魔法の桜の下。

1人の少女と1匹が立っていた。

「・・・お兄ちゃん・・。」
ここ数日、お兄ちゃんは寝る度に桜の花びらを吐き出した。
そして、日に日に、確実に記憶を削りとられている。
原因は明確。
医者でも分からないはず、だってこれは──
「この、樹のせいだもの・・。」
すうっ─。
深呼吸する。
「また、ボクが枯らせるしかないよね。」
何故、この桜が復活したのかを追及するのは後廻し。

まずは、お兄ちゃんが完全に記憶を失ってしまう前に、この桜の魔法の力を無効にしないと。

「・・・・まって」
「・・え?」
ボクは声のした方に振り返る──。

「・・・この魔法の桜の樹は、枯らせはしませんっ!」
ヒューッ──
夜風が、一層強く吹いた気がした。

第7章に続く。