『魔法の桜─』


『初音島の枯れた桜が再び我々の前に姿を見せました─』
夏休みのとある日。
どのチャンネルをつけても、新聞をみても、その事でいっぱいだった。

「・・しかし、あの桜がねえ・・・」
あの桜は普通の桜じゃない。
それは皆わかってるだろうが、そういう意味ではないのだ。

─魔法の桜

俺やことりはそう呼ぶ。
昔俺には思い描いた和菓子をその場で出現させる、という
対して役にもたたない魔法が使えた。
そしてもう1つ、人の夢をみてしまう能力。

これで、一時期は悩まされたっけ・・。

そしてことりは─。

─ピンポンピンポーン
あわただしくチャイムがなったかと思えば次には
「・・純一君、大変、大変だよー!!」

血相を変えた(まだドアをあけたわけではないのでわからないがきっとそうだろう)ことりの声がした

「・・・どうしたんだよ、そんな血相変えて・・。」
ことりが間を挟まずに言う

「桜が、桜が、桜がまた咲いたんだよ!」
「・・はぁ」
思わず生ぬるい返事をしてしまう

どのチャンネルをみても、新聞をみてもその事でいっぱいだからな・・。

「うん、知ってるよ、どうしてだかわからないけど、またにぎやかになるな」
「ははは・・・そうだね・・・」
ことりの顔が急に暗くなる。
「・・・・こえるの・・」
「え?」

ことりが震えた声で何かを訴えている。
「・・・きこえるの・・。」
「何が?」

「・・・みんなの声が聞こえるの・・・」
聞いてすぐにはことりの言葉の意味が分からなかった。
だが、思い出して見れば容易な事だった。

あの桜は魔法の桜。
それは俺に和菓子の生成能力・人の夢を見る能力を俺に与えた。

・・・頭の中で桜餅をイメージする。
すると案の定俺の手のひらには桜餅が握られていた。

「・・・まさか・・」
ことりは何も言わない。

「・・・きこえるのか、人の思ってる事が。」
「・・・うん。」

あまりにも突然の出来事。
桜は再び咲き誇り、その魔法による能力は復活。

「・・・一体どうなってるんだ・・・」
「と、とりあえずあがりなよ」

そういうと俺はことりを居間のソファーに案内する。
「オレンジジュースでよかったよな」
俺はことりにオレンジジュースを差し出す。

ありがとう、と軽く会釈するとことりは重々しく言う。
「・・・楽だった、前までは楽だった。人の心が読めれば円満に付き合う事ができたから」

「・・それで、今はずいぶん辛そうだけどどうして・・・」
「・・逆に人の心が読めてしまうのが怖いの。私にこうしろ、ああしろって命令されてるような気がして・・」

確かにそうだ。
人の様々な”思い”が聞こえてしまうことり。
本当は─ 少女の心には負担が大きすぎる─。
元々ありえるはずのない常識が、なくなって、それに慣れたことりにとっては・・。

「・・こんなこと言うと気分悪いかもしれないけどね、通りすがる男の人のいやらしい思いとか、そんなのもよく聞こえるの・・」

「・・・。」
俺は無性に腹が立った。
俺のことりをそんな風にいろんな男がみてるということ。
そのせいでことりが苦しめられてるということ。

そして何より─ 現時点でどうしようもできない俺がいる事─。

そんな俺の心を読み取ったのが、ことりが微妙に微笑みながらいう
「・・・そんなことない、朝倉君が、そんなにも私の事を想ってくれている事がうれしいよ」

そういうことりの目にはうっすらと涙が浮かんでいた

くそ・・・。

結局この日は、ことりを慰めて、あまり家からでないようにと念を押しておいた

さて・・・。
俺はベットに横になって考える。

ことりが苦しんでるのを俺はただ見ているだけしかできないのか─
ことりを守ってやる事はできないのか─
様々な思考が交差する中、俺は1つの結論にたどり着いた。

─ あいつなら、あいつなら何か知っているかもしれない。

そう確信した俺は静かに闇の中に意識を落としていった。

第2章へ続く