『・・・私、あんたの妹になったから。』 俺の頭の中を廻る言葉。 俺の頭の中はパニックに陥った。 そんなこんなで親父から電話がかかってきたのがさっき。 『・・・あ〜、そういうわけであの娘の事よろしくたのむな』 とのことだった。 しかも俺より先に天音に連絡を入れるとは・・・さすが俺の親。 それにしても俺、麻生 大輔(あそう だいすけ)の妹になった 桜塚 恋(さくらづか れん)。 俺としてはあんなに可愛い妹ができるのだし(口は悪いが)、親父の再婚には賛成だ。 親父だっていつまでも独り身じゃ寂しいだろうし、俺もいずれ一人立ちしなければならない。 そんな時、やっぱり一人っていうのは寂しいだろうし、何より親父の人生だ。 息子である俺が誰よりも理解し、応援してあげなければいけないだろう。 ただ、これだけは確認しておきたくて、親父にハッキリときいた。 「──今でも母さんの事は愛してるよな?」 『ああ、もちろんだ。』 これを聞いて俺は安心した。 さて、問題は俺の妹となった恋の事だが・・・。 俺は嫌われているようだが、あの子とうまくやっていけるのだろうか・・・。 ---------------------------------------------------------------------------- 『おはようございます、お兄様』 俺が学校の門をくぐると、そんな有り得ない言葉が俺に飛んできた。 「えっと・・・お兄様って・・俺?」 この声の主は、いかにもお嬢様らしい、ちょっとおっとりとした女の子だった 「はい、恋ちゃんのお兄様なら私のお兄様も当然ですわ」 「は・・はあ・・・。それで、君は?」 「はい、私、鷺ノ宮 藍(さぎのみや あい)ともうします」 鷺ノ宮・・・はて。どこかで聞いた事のあるような・・・。 「俺は麻生大輔、よろしくね、鷺ノ宮さん」 そして俺はつい、手を差し出す ・・・こういうのは女の子にするのはちょっとまずったかな・・・。 「私のことは藍とお呼びください、お兄様」 そうして鷺ノ宮──、藍ちゃんが俺の手を握ってきた。 「その、恋のお友達みたいだけど、普段恋って──」 俺が手を握ったまま照れながら言おうとすると、後方からやってくる大きな声と足音にかきけされた 「ちょっとあんたぁあああああああああ!!」 「お兄様、避けたほうがいいですわ」 そう言われとっさに、俺は右へと回避した 「チッ」 そう言いながら俺の前に現れたのは俺の妹──桜塚 恋だった。 「あんた、藍にちょっかいだしてんじゃないわよ!」 「・・・何、兄として恋のお友達に挨拶をだな・・・」 なんて、つい冗談めいた言葉がでてしまう。 「何が兄としてよ、私は全く一切認めてないんだからね!!」 ははは・・・すごい嫌われようだ とりあえず、この場は撤収したほうがよさそうだな。 「じゃあ、俺は行くから」 そういって俺は2人の前を後にした。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 『ちょっと、なんであんたがこんなところに居るのよ』 新しくアイスクリーム屋が出来たと聞いて、行列を並んで、やっと俺の番が来たかとおもえば 店員の第一声がこれだ。 全く、嫌になる。 「恋こそこんなところで何してるんだよ?」 「私はみてのとおり、この店の看板娘よ♪」 ・・・帰ろう。 そして俺は踵を返して店を後に── 「あああ、ちょ、ちょっとまちなさいってば!冗談よ、冗談」 しようと思ったが止められた。 「それで、何にするの?」 「バニラ1つ」 「お、あんたも中々わかってんじゃない、バニラ2つね」 ──うぉい。 「ちょっとまて、俺はバニラ1つと言ったはずだが?」 「つれないわねぇ、あと五分で上がりだからこれもって待っててよ」 そして俺にアイスが手渡される。 「ほいほい、分かったよ」 「600円になります♪」 ・・・俺のおごり決定かい。 -------------------------------------------------------------------------------- 「お、中々うまいな」 さすが行列に耐えてまで買った甲斐がある。 行列ができるほどだから中々のものだとは思っていたがここまでとは 「この甘すぎず、甘くなさ過ぎず・・・うん、気にいった。」 「へぇ、あんたお腹が膨れればなんでもいいみたいな顔してんのに結構グルメなのね」 ──どんな顔だそれは・・・。 「失礼な、俺だって1人暮らししてるんだから自炊するし、料理もするから自然と舌が肥えるのさ」 「へぇ、そうなんだ」 話を振っておいて恋はたいして興味なさそうな返事をする。 いや──まてよ 「お前だって一人暮らしだろ?」 「ええ、そうよ」 「じゃあ自炊とかするんじゃないのか?」 うーんと少し考えたようにして恋が口を開く 「・・・藍がね、よく差しいれをもってきてくれるの。だからそれがないときはコンビニ弁当が主かな」 「へえ、藍ちゃんって料理上手なんだ」 「ううん、藍の家のコックさんがね、上手なの」 へ? 何か今、すごく、聞き慣れない単語がよぎったような── 「コックって・・・まさか、鷺ノ宮ってあの鷺ノ宮!?」 「そうよ、今更気付いたんだ」 なるほど、確かに最初にあった時からお嬢様っぽい感じはしてたし、納得がいく。 なんで、恋がそんなお嬢様と友達になったのか気にはなったが口にはしないでおいた。 ・・・ちょうどいいから、恋に昨日からずっと考えていた事を言うか。 「あのさ恋・・・いや、桜塚。」 「なによ、急に桜塚だなんて呼んじゃって・・・」 俺があまりにも真剣な表情をしているせいか 恋にはいつもの張りがなくなっていた 「いや、俺考えたんだよ。 俺ってさ、ちょっと、いや、かなり恋に嫌われてるじゃん。」 「え・・・」 「そりゃそうだよな、両親が勝手に再婚してそれで俺みたいなのがいきなり お前のお兄ちゃんだぞなんて言ったらお前も気分悪いよな それなのに俺、お前の気持ちもしらないで家族になったんだから打ち溶けようって 土足でお前の心の中に踏み込もうとしてたよな、ごめん。」 「え・・・ちょっと、そんな──」 恋の言葉をまたず、俺は続ける。 「だから、もう気安く恋だなんて呼ばないし、望むのなら他人のふりでもなんでもするよ。 今までお節介やいてごめんな」 俺はペコリと頭を下げる。 「・・・」 恋に言葉はない。 が、俺が顔をあげると── 見た事もない恋の泣き顔が瞳に映った。 「・・・ちがうの・・・そんなことないの・・・私が、私が素直じゃないだけなんだから──!」 そういって恋は俺の前から走り去っていった。 ・・・なんだったんだろう。 俺は恋の思い通りにしてあげようと思ってたのに あの涙の意味は一体── -------------------------------------------------------------- ザァアアアア── 昼休み。 それは突如やってきた。 まるで俺の心の中をあらわすかのように、雨が降り出した。 ──置き傘しといて助かったな。 まあ、雨がふりそうな日に持って来て持って帰るのを忘れてそのままにしているだけだが。 さて、いつまでも窓際で黄昏ていないで購買にいくか。 お目当てのパンが早くしないと売りきれるからな そうして、俺が購買へ向かうと今一番逢いたくない彼女が、そこにいた。 俺が昨日あんなことを言いだしたんだ、変に意識しちゃだめだよな 他人、他人っと。 「・・・」 「・・・」 俺達は無言で通りすがる。 ただ、横目でみた彼女の表情はどこか悲しげだった。 ---------------------------------------------------------------- 『それじゃ、今日はここまで。気を付けて帰れよー』 担任がそういうと教室がいっせいに騒ぎ出す。 案の定、傘を忘れて慌ててるやつもいれば、俺のように置き傘に救われている奴もいた。 「帰るか・・・」 そういうと俺は思い腰をあげて教室を後にした。 そしてまた、彼女に逢った。 「・・・これは、濡れて帰るしかないわね・・・」 なんて、馬鹿な事をほざいてやがった。 ・・・さすがにこれは無視できないよな。 「おい、これ使えよ」 そういうと俺は無鉄砲に傘を差し出す。 「え・・・?」 「それじゃ・・・」 俺は彼女の返事も待たず、どしゃぶりの雨の中を走り出した。 頭を冷やせば、この重い気分もまぎれるかもしれない。 そんな事を考えながらひたすら家まで走った。 ----------------------------------------------------------------------------- 俺は家に帰ると速攻で風呂場へと向かった。 制服が肌に張り付いて気持ち悪いし、何より風邪でもひいたら困る。 「ふぃ〜・・・・」 湯船につかりながら、そんな親父臭いため息のようなものがでる。 ・・・こういう時本当にありがたいよな、24時間風呂って。 何もかもがお湯に溶けて無くなって行く──そんな事を思いながら俺の意識はまどろみのなかに消えていった・・。 ---------------------------------------------------------------------------------------- 「ん・・・」 俺は顔につめたいものを感じて目が覚める。 ああ・・・風呂で寝てしまってたのか・・・。 こりゃ、早く上がらないとのぼせるな・・・。 ------------------------------------------------------------------------------------ 俺が風呂からあがると、得たいの知らない臭いと音が台所から聞こえてきた 泥棒・・・? そう思ったが人様の家でのんきに料理をする泥棒など聞いた事がない。 ・・・となると、天音のやつかな。 彼女の件があってから全然構ってやってなかったしな・・・。 「おい、天音、何やって──」 「長いお風呂だったわね、もうすぐ出来るから待ってて」 なんて、およそこの場に似つかわしくない、桜塚 恋がそこに立っていた── ------------------------------------------------------------------------------------ 「お前、どうして・・・」 「傘、返しにきたのよ、それでアンタあんな雨のなか傘もささないで走っていっちゃうから──」 これぐらいお返ししなきゃ気がすまないわ。だなんていって、俺を席へとうながした 「おまたせ・・・」 すると、なにやら料理とはいいがたい物が数々出てきた。 「これは・・・」 また、強烈だなと。 思ったが口にしないことにした。 「まあ、見た目は悪いけど味はいいとおもうから・・・」 「んじゃま、いただきます」 パク。 1口、口に放り込む。 「ゲホッ、ゲホッ」 思わず咳ごんでしまう お世辞にもおいしいとは言い難い味であった。 「うん、おいしいよ」 そうして俺はバクバクと全部の料理を平らげた。 「ごちそうさま」 「・・・どうだった?」 「うん、すげぇ旨かったよ、お前、いいお嫁さんになれるぜ」 なんて、お世辞ぎみた、でもお世辞ではない、言葉を口にした。 俺の瞳から不意に暖かいものが流れる。 「ちょっと、なんで泣いてんのよアンタ──」 「あ──れ、おかしい──な」 確かに味はよくなかった。 だけど、なぜか食べて行くうちに俺の心は暖かくなっていった。 あれだけ俺は嫌われてたはずなのに、そんな俺のために仮にお返しだからということでも 彼女──恋が俺のために料理を作ってくれたと言う事自体が嬉しかった。 そうして結局、俺の涙がとまるまで恋は隣にいてくれて、食器を洗って帰って行った 帰り際の曇った表情が気に成ったが、そりゃ大の男に目の前で泣かれもしたら気分は悪くなるだろうな・・。 そうして俺は床についた。 ちなみに次の日、腹痛で学校を欠席したのは言うまでもない── -------------------------------------------------------------------------------------------- キンコンカンコーン── 3時限目の授業が終わり、昼休み開始のチャイムがなる。 このチャイムは俺達、学食戦士の戦闘開始の合図でもある。 「高橋三等兵、敵陣へ乗り込んでくるであります!」 なんて、クラスの馬鹿がいいながら食堂へと走って行った。 「三等兵ごときに負けてたまるか・・・!」 そういって俺はレースゲームでいうところのロケットダッシュ波の速度で教室の扉をくぐると 不意に、 「お兄様──!」 なんて声に止められて、急ブレーキをかける。 「えっと、藍ちゃん、どうしたのかな? 俺、食堂戦士、麻生大差は三等兵なんかに負けるわけにはいかないんだが」 「まあ、大佐自ら戦場へと出向かれるんですね」 とおしとやかな笑顔で言われる。 意外とノリいいんだな──。 「それで、どうしたの?俺になんか用?」 「ええ、恋ちゃんがお兄様を屋上へつれてきてくれというのでお迎えに」 「え・・・?」 「連れて来いってあいつが言ったの?」 「ええ、そうですわ」 ・・・なんで、俺をわざわざ昼休みに呼び出すのだろう。 傘のお礼なら一昨日で済んだはずだし──。 気付かないうちに俺、またなんかやらかしちゃったかな? そんなどうしようもない不安をいだきながら屋上への階段を登る途中 「・・・恋ちゃんは素直じゃないですから・・・」 なんて、彼女の言葉が俺の頭から離れなかった── ------------------------------------------------------------------------------- 「・・・これ、食べて。」 そうして俺の手に弁当箱が手渡される。 「え・・?」 正直、またあの料理をたべるのかと思うと気が滅入りもしたが それ以上に、どこかわくわくして、嬉しくてしょうがない俺がいた。 「・・・アンタ・・・。」 そうして俺に弁当を手渡した恋は拳をにぎってうつむいてしまった。 どうしたんだろう・・・? 「なんで、あんな料理嬉しそうに全部たべたのよ──!!」 そういう彼女の瞳からは大粒の涙が溢れていた 「なんでって、おいしかったからに決まってるじゃないか」 「嘘!!だって、フライパンにのこってたのをつまんでみたら、炭の味しかしなかったもの──!!」 「・・・」 言葉がない。 でも、確かに味はよくなかった、でも俺の心をノックする、暖かさがあの料理にはあった 俺が勝手に感じていただけにしても、あの料理を残すなどという選択肢はなかったし 思い浮かびもしなかった。 「・・・だから、リベンジ。今度は大丈夫だから。」 「・・・ああ。」 俺は頷くと、弁当箱を開けた。 中にはからあげ、たまごやき、タコさんウィンナーなどという弁当の定番メニューがつまっていた。 うん、今度は見た目もいいし、味も期待できそうだ。 「いただきます」 まずは玉子焼きから。 ・・・・。 「うまい・・・。」 「ホント?今度は無理してない?」 「ああ、本当にうまいよ、うん」 一昨日の料理も無理しては食べてないのだけれど。 「そう、よかった」 そして終始ニコニコしながら俺達を眺めていた藍ちゃんが、やっと口を開く。 「恋ちゃんったら、昨日料理を教えてくれって夜遅くまでずっと私の家で練習してたんですよ」 ・・・え・・・。 「ちょ、ちょっと藍、余計なこと言わないでよ!」 気に成って、恋の手元に目をむけると、絆創膏だらけだった。 「お前・・・」 「・・・借りっぱなしって、私の性じゃないから」 そんなこんなで皆で弁当をたべていると、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。 幸い、みんなちょうど食べ終わっていたので問題はなかった 「はい、じゃあ弁当箱返して」 「いや、洗って返すよ」 「いいわよ、それぐらい」 「・・・いや、それぐらいさせてくれ」 「分かったわよ、それじゃあね」 そうして俺達は解散した。 俺はつい、恋とのつながりを断ちたくなくて また逢うきっかけがほしくて、弁当箱を洗うと強く押した。 ・・・あれ?なんで俺は恋とまた逢いたいんだ? そんな自分の感情に不振をいだきながら、教室へとむかった。 ------------------------------------------------------------------------------------ ジリリリ── 相変わらず頭に響くような重い目覚ましの音で目が覚める。 今度買い帰るか・・・。 朝のだるさがこの目覚ましの音で倍増している気がする。 さて、弁当箱をもってと。 俺は弁当箱のなかに、昨日の帰りに買ったシュークリームを数個詰めておいた。 あいつ、甘いもの好きそうだしな。 ----------------------------------------------------------------------------------- そうして放課後。 俺は恋に逢うために恋の教室に向かったが既におらず、しかたがないので下駄箱にむかったが まだ恋の上履きがあったので、学校内を探す事にした。 そうして、体育館の辺りを探していると── 『・・・俺と、付き合ってください』 なんて、声がきこえてきた。 なるほど、体育館裏といえば告白の名スポットだもんな。 俺は回れ右をして体育館を去ろうとするが、聞き覚えのある声に足をとめられる。 「・・・ごめんなさい、貴方とは付き合えないわ」 ・・・恋だ。 しかし、こういう場面を覗き見るような真似は悪いと思い、下駄箱前で待っているかと 下駄箱へ向かおうとすると、告白のシーンとは思えない怒鳴り声がきこえてきた 「ケッ、なんだよ、お前なんかな、顔だけなんだよ、このドブス!!」 ──おい。 俺は再び体育館裏へかけだした。 「あんた、今までで最低の男ね。そんなんで私に告白するなんて良い度胸ね」 ったく、相変わらず強きなんだから 「なんだと、俺は女でも容赦ないんだからな──!」 そうして、男は拳を振り上げる── 「お前なんか、二度と学校にこれない顔にしてやる──!」 そうして男は恋に向かって拳をふりかざす だが── 「グホッ──」 それは寸前で割りはいった、俺の顔面によって防がれた。 殴られた衝撃で倒れる。 とっさな事で受身がとれず、全身に痛みがはしる。 口の中からは血の味がした。 どうやら、口の中を切ってしまったらしい。 「ちょっとアンタ、どうして──」 恋の泣いたような声が聞こえる。 お世辞にも俺は喧嘩は強くないし、力もない。 ただ、それでも、精一杯の強がりで。 「・・・フラレタくせになさけねぇ奴。おとなしく退けよ、みっともねぇ。」 「なんだとこの──!」 男が再び俺にふりかかってくる そもそも俺は戦う術をしらない。 絵書きにとって手は命だったし、そもそも同じ人間同士で争うという事自体俺は好きでなかった。 だから男女問わず俺は人に手を上げないと常に心に決めていたのだ。 だが── 今回ばかりはそうもいかないだろう。 俺が無抵抗のままやられてしまえば確実に恋に奴は向かう。 「恋──逃げろ!!」 俺は俺のだしえる思いっきりの声で叫んだ。 そうしてどれだけの時間がたっただろうか。 俺は結局攻撃を防ぐ事しかできなかった。 そして、腹に大蹴りをいれられ、俺は地べたに倒れた。 ──まあ、恋を逃がすということには成功したのだから、いいか。 そうして途切れ途切れの意識を完全にシャットアウトしようとすると 「さて、お楽しみはこれからだな、桜塚よぉ」 なんて、最悪の目覚まし音がきこえた。 くそっ、恋のやつ逃げてなかったのか 俺はもう起き上がれないと悲鳴をあげている体に力を込め、立ち上がる。 足は関節がどうかしてしまったのか、震えていてとてもかっこいいとは言えない代物だった。 「おい、まてよ」 「まだ意識があったのか、しぶといやつだな」 そう言いながら男は再び俺の方へ向かってくる 恋は大粒の涙をながしながら座り込んでいた 「やめて、お願いだからやめて──!!」 「お姫様がお呼びだぜ、ナイト様よぉ。だが、その有様じゃどうやらお姫様を助ける事はできなさそうだな。」 ニヤリと、男が笑みをこぼす。 そうして、ポケットから男がなにかを取り出した。 「くっくっく・・・さて、これで終わりにしようか」 そうして男は銀色に光る物──ナイフをかざした。 こりゃ、身を捨ててでも男からナイフをうばって、どこかに投げ捨てるしかないな。 俺は捨て身の覚悟で構えると男は── 「足もブルってるお前なんか、もう用はねえんだよ──!!」 そうして男は俺の方ではなく恋の方へと走って行った── くそっ──! 俺はもうとっくに脚としての機能を果たしてないはずの足を 気力だけで無理矢理うごかす 間に合え、間に合え、間に合え、間に合え── ザクッ── 周囲に身を切るような音が広がる。 「いやぁああああああああああああああああああ」 恋の、悲鳴が、きこえ、る。 「・・・ゴフッ」 口からでた血が地面を紅く染める。 「・・・まにあ・・っ・・て、よか・・・た」 男が振りかざしたナイフは恋に届くことなく、俺の喉へと突き刺さっていた。 「・・・チッ──!」 男がしたうちをして、この場を走り去って行く。 どうやら、この場は恋を守る事ができたようだ。 「・・・恋、無、事──か、。」 俺は恋に向きかえる。 喉に突き刺さったナイフが最悪だなと思ったが、今はそれよりも恋と話がしたかった。 「どうして、どうして──!そんなもの喉にささってながら笑って無事か?なんて言えるのよ──!」 あ──れ。 俺、笑ってたのか。 まあ、恋が無事だったからな──。 「どうして、どうしてよ──!」 泣きじゃくる恋の前に俺の意識はもう限界に近づいていた。 「・・・れ、ん、は・・・俺の・・・いもうと、だか・・・ら」 バタリ。 そんな音が聞こえて俺は倒れた。 意識が完全に消える前のまどろみのなか俺は、どこかドラマの1シーンみたいだなと そんな事を思った。 ---------------------------------------------------------------------------------------- 俺が目覚めて第一に見たのは恋の泣き顔だった。 ──最近、泣き顔ばっかりみてるきがする。 まあ、俺の所為なんだろうけど・・・。 こうしてあまりの出血に死すら覚悟していた俺だが、どうやらあの後かけつけた 藍ちゃんと、教職員のおかげで俺はすぐ救急車で運ばれたらしい。 そして、例の男は帰宅途中に俺の返り血から警察につかまり、逮捕されたらしい。 俺の体中には包帯がまかれており 手足も自由に動かせない状態だった。 そして何より── 「花瓶のお花、とりかえてくるね」 そんな事があってから恋は毎日のように俺の見舞いにきてくれているのだが いつもありがとう、恋 そんな言葉すら俺にはかけることができなかった 「──っ──ぁ・・・」 ・・・そう。 俺は命をとり止めた代償に、“声”を失っていた。 「・・・無理しないで、お礼がいいたいのよね・・・でも、私の所為だから──」 そうして恋は病室を出て行った。 お前の所為じゃない そう伝えたいのに、伝えられないもどかしさ。 「──ぁ──っ──・・」 何度も何度も喋ろうとするが、声は一向に出ない。 そして、恋が俺の意識がもどったあと、親父達に連絡をしてくるという恋を俺は ほとんど動かない腕をうごかして止めた。 恋はでも・・・と口をにごすが、俺の思いのほか強い腕のちからのせいか わかった・・・。と諦めてくれた。 せっかく親父達も新婚生活をたのしんでいるんだ。 別に大きな病気でもないのに(声はでなくなったが)わざわざ帰国させるというのも申し訳ない。 -------------------------------------------------------------------------------------- そして月日は流れ── クラスメイトや、担任の先生、校長やらも見舞いにきてくれた。 そして、いつの間に親父達の耳に伝わったのか、親父達も見舞いにきた 俺の強い要望で再びすぐにもどっていったが・・・。 どうやら学校では俺がヒーローのように騒ぎ立てられてるらしい。 まあ、ちょっと照れはするが嬉しいか?ときかれれば嬉しくはないな・・・。 俺はただ、当たり前の事をしただけだし。 今となっては恋が俺の家族として色々世話をしてくれている。 申し訳ない気持ちでいっぱいだ・・・。 そしてある日・・・ 「大輔、あのね・・・」 いつの間にか、恋は俺の事を大輔と呼ぶようになっていた。 「その、先生から聞いたんだけど、喉の手術・・・成功確立は9%程度のものらしいんだけど 成功すれば声がもどるんだって、手術、してみない?」 手足が動くようになった俺は、今では紙とペンを使って会話をしている “失敗したらどうなるんだ?” そう俺が紙にかいて恋に見せると、恋は表情をくもらせ 「うん、その、二度と喉の手術はできなくなっちゃうんだって──」 つまり、これから何年か──いや、何十年か先に医学が発達して俺の声が確実にもどせる 手術法が見つかったとしても、そのとき俺は手術をうけられないって事か──。 “不便だけど、こうして紙とペンで会話はできるんだから、俺はもういいよ” そう、恋に返事をする。 これは嘘偽りない俺の本心だった。 たしかに、声がもどれば俺は以前通り、なんの支障もない生活ができるだろう。 ただ、もう手術だのなんだのして恋に心配──いや、恋の泣き顔をみるのは辛い。 だから、俺はもう声なんてなくてもいい。 恋が笑ってさえいてくれればそれで── そう、入院中、毎日、見舞いにきて世話をしてくれる恋をみて俺は1つ確信したことがある。 ──ああ、俺はこんなにも恋の事が好きなんだ。と。 それを声にだして伝える事ができないのが残念だが、それでもいい。 俺は、声を失っても、恋を守る事ができて本当によかった。 「・・・きっと成功するから!お願いよ!手術をうけて!」 恋が泣きじゃくりながら俺の肩をつかんで言う。 ・・・当初の恋からは想像できないような泣き虫な女の子になったな、恋は。 そんな恋にみとれながら、俺は “もう、誰かに心配とか、迷惑をかけたくないんだ。” そう返事を書いた。 「迷惑なんかじゃない!私は、私はちゃんと声で大輔と話がしたいの! 大輔だって私に言いたい事なんか山ほどあるでしょう──!」 恋が、拳をにぎる。 ──ああ、あるよ。言いたい事は。 恋が想像しているような事は決してないけれど、俺はこの想いを君に伝えたい── “分かった、俺、手術をうけてみるよ” そう俺が返事を書くと、恋はとびっきりの笑顔を俺に見せてくれた。 ・・・ああ。 俺はこの笑顔がずっと、見たかったんだ── -------------------------------------------------------------------------------- 手術当日。 絶好の手術日和というところか。 外はまぶしいほどに晴れ、雲ひとつない快晴だった。 時折なく小鳥の声がこだまする。 俺は手術を受けると決心したその日、恋に頼んでスケッチブックを用意してもらった 学校に束縛されながら書く絵は嫌だったが、お見舞いにきた藍ちゃんから 恋が俺の書いた海の絵をたいそう気にいっていたとの話を聞き 手術後に恋にプレゼントしようと思って、多少のブランクを感じながらも恋が学校にいってる日中 スケッチブックにずっと向き合っていた。 『麻生大輔さん、手術のお時間です。』 そう呼ばれて俺はベットごと病室を離れる。 全く、手術室ぐらい歩いていけると思ったが、そうもいかないらしい。 そして、恋はこの日、学校をやすんで手術の終わりまで待つと聞かなかったが 俺が手術の結果は恋が放課後、病室にきてからのお楽しみさ。というと しぶしぶ了承してくれた。 それに、恋の泣き顔をみると俺の決心も揺らいでしまうかもしれない。 そう思ったからだ。 「それでは、手術(オペ)を始めます。」 そういう医者の声がしたあと、麻酔でもうたれたのか、俺の意識は途絶えた。 ---------------------------------------------主観変更:桜塚 恋 『それでは、今日はここまで、各自──』 担任の挨拶が完全に終わる前に教室を飛び出す。 教室から何か声がきこえたするが、そんなものどうでもいい。 バスにのって、病院前の上り坂に着く。 走る。 走る。 走る。 途中、こけて靴が脱げてしまうがそれすらどうでもいい。 早く、早く── 大輔の元に、──。 『ちょっと貴方、院内では──』 廊下を走らないように。とでも言いたかったのであろう。 その看護婦すら私は無視して大輔の病室まで駆けた。 「大輔──!」 扉を勢いよく開ける。 すると中には上半身を起して、窓の外を眺めている大輔の姿があった。 私に気付いたのか、大輔はこちらに顔をむけた 私は大輔の元にいくと 「手術、どうだったの?」 と息をきらせながら問う。 が、しかし大輔は笑ったままで何も言わない。 ───。 「私のせいだ・・・私のせいだ・・・!私のせいで大輔は・・・!」 私は大輔の胸で泣きじゃくる。 本当に自分が嫌になる 素直じゃなくて、わがままで本当に、本当に大嫌い──!! あの大輔を襲った男がいった、“お前は顔だけ”だというのは本当だろうと 今更になって、実感した。 「ヒック、ヒック・・・ごめんね、 大輔、私、ずっと大輔のそばにいて声がでない分お世話するから!!」 そして、次の瞬間、聞き間違えるはずのない声が室内に響いた。 『──なんだ、声がでたらずっと俺と一緒にいてくれないのか?』 そういう大輔はニッコリと、私に向けて笑顔を見せてくれた。 「あ・・・あ・・・・」 嬉しさのあまり声がでないというのはこういう事だろうか 声が戻ったら言いたい事はたくさんあったはずなのに、声がでない 「恋、これ受け取ってくれ」 声がでなくてわけのわからなくなっている私に、大輔はキャンパスを手渡した。 キャンパスを開くと、そこには青くて広い海に、私と大輔の姿があった──。 「恋、俺、お前の事が好きだ。俺と、ずっと一緒にいてくれないか?」 「大輔──!!」 私は、大輔に飛びついた。 「全く、こっちは病人だから少しは気を遣ってくれよな」 素直になれなくて、誰からも愛されていなかった私と 好きだったはずの絵を書かなくなった大輔の物語はここで終わった── そして私達の新しい未来が今、スタートした── 【あとがき】 え〜、Canvasを購入して、恋をクリアして ボーっとしているとふと恋の事とかを妄想(笑)というか、頭のなかで物語が組みあがったので 文章にしてみました。 ちなみにこの小説を書き始めたのは今日の朝5時ごろで書き終わったのが同日23時前。 公開がまた同日というハードスケジュールな展開でお送りしましたがいかがでしたでしょうか? ちなみに、こんなに一気に小説を書いたのははじめてですし 頭の中で思い浮かんだ物語をここまで忠実に文章にできたのも始めてです。 題材がCanvas-セピア色のモチーフ-ということで大分前の作品のSSではあるのですが 楽しめていただけたらと思います。 感想など、WEB拍手、メール、掲示板などでどしどしお待ちしております! それでは、また次回作でお会いしましょう 平成18年 3月2日 月神恭介 『素直になれない妹、絵の書けない兄』